98点の男

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そして化学の授業。 髪が薄いのにボサボサ頭の小山がテストの結果を配りだした。 先生の中でも異質なやつだ。 「国林くん」 出席番号順なのですぐ俺の名前が呼ばれた。 無表情で小山は俺に答案用紙を渡した。 用紙の右上にしばらく見ていないような二桁の数字が見えた。 89点 一気に恥ずかしさがこみ上げてきた。 テスト結果では初めての経験かもしれない。 点数の部分を筆箱で隠した。 これも初めてのことかもしれない。 俺が80点代をとるなんて。 悔しさのあまり呆然としていると、春田が呼ばれた。 点数を見てやや満足げな表情をしているように見える。 「今回のテストの平均点は62点。 難しかったか? 再テストはしないが間違い箇所は確認しておくように」 小山がしかめっ面で言った。 最高点は言わなかった。 誰だろう。 春田か、吉田か。 よもや俺ではあるまい。 授業のあと、にやけた表情で春田が近づいてきた。 「その感じだと、あまり点数はよくなかったみたいだね」 「あぁ久しぶりにこんな点数とったよ」 俺は周りに聴こえないように努めて小声で話した。 「おっ、ということは80点台かい?」 「あぁ、89点」 「じゃあ、今回も僕の勝ちだね。 僕は95点。 でも僕は理系だから化学得意だし、平均点も低かったから落ち込まないほうがいいよ」 こいつに励まされるとより惨めな気持ちに拍車がかかる。 俺は早く自分の席に帰れというオーラを出した。 春田はわかったとばかりに、来たときと同じにやけた顔で帰っていった。 これで春田との差は8点。 だがまだ追いつける可能性はある。 あいつは理系だと言っていたから文系の教科で全然逆転は可能なはず。 ただ現代文で100点とったことを考えれば、結局文系もいける口な可能性は大いにあるが。 「どうしたの?国林君。 顔色悪いよ」 吉川もにやけて話しかけてきた。 悪い点数をとったときに限って来客が多い。 「いいや、ちょっとお腹空いてさ」 「あ、そう。 化学の点数が悪かったとかじゃなくて?」 「あぁ、それもあるかもね」 「ふーん。 ちなみに私は94点」 聞いてもないのに点数を告げた吉川は満足そうな顔をして席に帰っていった。 誰かに点数を言いたくて仕方なかったんだろう。 まあともかく英語Bだ。 ここに賭けるしかない。 休み時間が終わり英語Bの片岡先生が入ってきた。 「えー、中間テストの結果ですが、現在採点中のためにちょっと今日は返せません。 次の授業には返すので、楽しみにしておいて下さい」 なんだそれ。 中学でもこういう先生いたな。 採点くらい間に合うだろ、次の授業が早いクラス順に採点すれば。 萎える。 しかもお調子者の大友に向かって「楽しみは後の方がいいだろ?」的なこと言ってごまかしてやがる。 救えねぇ。 周りをうかがっても何を期待してたのかは知らないが、さっきアホ自慢をしていた青野や川崎も残念そうな顔をしている。 テストは誰にでも返ってくるまでは楽しいものなのか、年末の宝くじのように。 煮えきらない気持ちのまま休み時間になった。 春田はやって来なかった。 本当にテストの報告のときしか来ないようだ。 やつはノートを広げて机に座ったまま動かなかった。 休み時間も勉強か。 俺には出来ない。 出来るが出来ない。 勉強をするところを見せれるという才能も今後は必要になってくるかもしれない。 と、隣の席の青野とくだらない話をしながら意識半分で思っていた。 青野との会話は意識半分で十分可能だ。 青野の視線が前に向いたと思うと、それまでより長く感じた休み時間が終わって古文の先生が入ってきた。
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