98点の男

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藤川先生。 隣のクラスの担任で、よくうちの担任と仲良さそうにしている若手の先生だ。 頼むから二限連続肩すかしはやめてくれよ。 「さぁ、今日はお待ちかねのテストを返しますよ〜」 先生は教卓に立つなり笑顔で言った。 「じゃあ問答無用で返していきますからね〜。 呼ばれたら前まで取りに来てください」 最初にテスト結果を受け取って帰ってくる青野の顔からは喜びが漏れ出ていた。 座った後チラリと横をうかがうと71点だった。 幸せの尺度というものはそれぞれ違うものだ。 一瞬青野が羨ましくも思った。 なぜなら今の俺は100点以外嬉しくないだろうからだ。 嫌な世界に入ってしまった。 「国林くん」 急に呼ばれてハッとなってしまった。 さっきまでにこやかだった先生が変に真面目な顔をしている。 どういう意味だ。 受け取った瞬間に点数を見る。 98点と書かれていた。 そんな。 先生は「惜しかったね」というような労いの顔をしている。 俺は無表情で席に戻った。 またも98点。 どこを間違えたのだろう。 見てみると、またも記号問題だった。 くっそ。 つくづくついてない。 悔しくてどの問題かも見る気もしなかった 現実逃避だ。 先生の話によると100点はおらず最高得点は98点とのこと。 少なくとも古文で春田に負けるということはなくなったが、ここでどこまで差を詰めれるか。 「お前さぁ、なんでそんな悔しそうな顔してんだよ。 チラッと見えたけど98点だろ。 もしかして100点狙ってたってわけ?」 先生がトイレにいった隙に青野が喋りかけてきた。 返答を間違えると一気に嫌われてしまう気がする。 「え、ちげぇよ。早く帰りてぇなって顔してただけだよ。 やけに眠いし、これ終わってもまだ日本史あるとかダリぃなって」 「嘘つけ、お前日本史得意だろ」 「得意と好きは別なんだよ」 先生が戻ってきたので青野は何か言いかけてたが口を閉じて前を向いた。 それにしても俺が日本史が得意だって、なぜ知ってるんだろう。 この学年で定期テストは初めてなのに。 俺は特にガリ勉キャラでもないし、授業で自主的に手を上げて答えたことも一度もない。 それなのに春田も吉川も、やけに俺のことライバル視してたっぽいし。 現代文の結果の貼り出しがあったからか? いや、青野の言い草からしてそれだけではない気がする。 嫌味ではなく、勉強ができるというのは、否が応でも漏れ出てしまうのだろうか。 いつの間にか古文の授業は終わっていたが、春田はチャイムが鳴ってもすぐにやってこなかった。 そういえば俺はテストの点数を見せていたが、あいつはずっと口頭で申告していただけだったので、疑ってるわけではないが今回は俺から春田の席に向かった。 着くなり、春田は意外そうな顔をしていたが少し焦っていたようにも見えた。 「おう、もう行こうかと思ってたところだ」 「疑うわけじゃねぇけど、一応お前の点数も見とこうかと思ってな」 「それって実質疑ってるんじゃねぇか」 「まあな」 春田は机の中からファイルを出して堂々と古典のテスト結果を見せてきた。 94点だった。 微妙なところだ。 俺との差は4点だから、これで総合の差も4点。 総合点ではまだ俺が追いかける立場にある。 「俺は98点だ」 「またかよ、好きだな」 その皮肉も負け惜しみに聞こえるほど、少し気分が良かった。 4点差なら次の日本史で逆転が見えたからだ。 「お前日本史は得意なのか?」 様子をうかがってみる。 「あんまりだ、暗記系苦手なんだよ。 公式覚える方がずっと楽だ。 お前は得意なんだろ?」 「さぁな」 あまり無様な思いはしたくなかったので、大きなことは言わなかった。 だが実際は100点を確信していた。 席に戻るもまもなくチャイムがなり、白髪混じりの髭を生やした日本史の後藤田先生が入ってきた。
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