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扉の向こうで声がする。
母親が電話をしている。
小声で喋っているが俺の気配には気付いていないようだ。
耳を澄ましてみる。
「あの子、落ち込んでるのかしら。
帰ってくるなり、すぐ部屋に閉じこもったわよ。
うん。
そんなに喋ってないからあれだけど、疑ってはいないみたいだったけど。
うん。
これで高校のテストは一筋縄ではいかないって思ってくれたらいいんだけどね。
最初が肝心でしょ。
100点なんてチョロいと思ったら、自惚れて勉強しなくなるかもしれないから。
うんうん。
え?で、今日は何時くらいになるの?」
別の話題になった。
でも、やはりだったか。
やはりこいつの仕業だった。
俺の解答を書き換えたのは。
おそらく方法はうちの担任に頼んだんだろう。
今後の俺のために挫折を味わわせたいという親の意向を最初は担任も断ったはずだが、なにせ熱くてしつこい母親だ。
次第にそういうことなら、と一問だけ書き換えるのを許可したのかもしれない。
そして出来るのなら他に100点の可能性がある教科も担当教師に頼んでくれとも言われたはずだ。
古典の藤川先生も日本史の後藤田先生もうちの担任と仲は良さそうだから頼めないことはないはずだ。
もしかしたら金が動いているかもしれない。
どうするべきか。
俺は扉の陰で今聞いていた話を母親に告発するかどうか悩んだ。
しかし、やめた。
次の期末テストでまた頑張れば良いだけだと思ったからだ。
俺は部屋に戻って天井を見上げた。
この判断は何点なのだろうか。
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