Take.2

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Take.2

「橋本さん、どっかに移るつもりでしょう」 「……ありゃ。……いつ気づいたの?」  突然の問い掛けに一瞬動揺したもの、何もなかったような――出来ればなかったことにしたいなと思いながら振り向いたのに。  悠斗は嘘を許さない真っ直ぐな、置いてきぼりを食らった仔犬にしてはキツイ眼差しでこちらを見つめていて、誤魔化しても仕方なさそうだと苦笑いで頭を掻いた。 「……僕ももう四十だからね。やりたくない仕事はやらなくてもいい場所に行きたくて」 「……やりたいくない仕事……」 「違うよ。悠斗のことは、ずっと……最後まで見届けたかったんだ。……だけど、傍で見守ってやることも許されなかった」 「…………カズキとのこと?」 「……察しが良すぎると苦労するよ」 「……。やっぱり、何かあったんですね」 「――ごめん。ああするより他なかったんだ。……もう二度と、あんな想いをしたくなくてね。……弱いマネージャーでごめん」  頭を下げた一回りも上のおっさんを、どう思ってるんだろう。  すんっと鼻をすする音がしてそっと顔を上げたら、唇を強く噛んだ悠斗がふるふると首を横に振っていた。 「オレも……一緒に行きたい」 「……一緒にって……」 「やりたくないことはしなくていいんでしょ?」 「……今よりもずいぶん小さな事務所だから……」 「……圧力かけられるかもって? いいよ、それならそれで。未練なんて一つもない」 「……和樹くん以外には?」 「…………うん」  業界内では、河原悠斗は気が強くて扱いにくいとされている。――それは、彼が自分の心を守るために纏った鎧であって、本来の彼はまさに今目尻に涙を溜めているように、むしろ涙脆い一面さえある。  ただし、非常に頑固であることは事実で。だからこそ何を言って聞かせても無理であろうことはよく理解し(わかっ)ていた。 「……。アサヒナ芸能って知ってるかい?」 「それって、確かfratello(フラテッロ)の……」 「……あぁ、そうか。悠斗は彼らのファンだったよね」  いつになく、しかも状況さえ忘れたかのように浮ついた声を出した悠斗に、なんとかそれだけ返したものの堪えきれずに肩が揺れてしまう。  従兄弟同士でデュオを組んでいるfratelloは、年代や男女の別すら問わずに大人気であることは承知しているけれど、まさかこの状況でこんな風に食いつかれるとは思いもしなかったのだ。  いつまでも笑いの発作を治められずにいると、照れ臭そうな顔の悠斗に軽く睨み付けられた。 「デビュー当時からのファンだもん。悪い……?」 「いや、悪くないよ。笑ってごめん。年相応な悠斗を見ると、つい嬉しくなっちゃって」  唇の端がまだ笑いに歪んでしまうのをどうにか手のひらで隠して、コホンと咳払いをする。 「アサヒナ芸能は、人をイチから育てることに重きを置いている事務所なんだけどね。……今の事務所に比べたら、規模で言えばほとんど三分の一。スタッフも手が足りてないみたいで、それで声をかけてもらったくらいなんだ。……いくら河原悠斗とはいえ、小さな役さえ取れなくなるかもしれないよ?」 「そんなの気にしないってば」 「……。――君まで一緒に出ていくとなると、事務所も相当引き留めてくるだろうなぁ……。何か考えないとね。……とりあえず、アサヒナの方には一度相談しておくよ。……まぁ、あの社長なら目をキラキラさせて大歓迎してくれるだろうけどね」 「知り合いなの?」 「副社長と古い付き合いでね。社長とも何度か会ったことがあるんだ。話の分かる……夢を追いかける少女みたいな人だよ。……さ、とりあえずこの話はここまでにしよう。また話が進んだら、ね」 「きゃーっ! やだっ。ホントにユウトじゃないっ!!」  出会い頭、ファンでもやらなさそうなリアクションで迎え入れられて、さすがに唖然としてしまった。 「やだってなんだい、やだって」 「だって! ホントに連れてくるなんて思わないもの!」  ウキウキと弾む声と目が、キラキラとこちらを歓迎してくれるのが、なんとも照れ臭い。  とんとんとマネージャーに背中を叩かれて、ハタと我に返ってぺこりと頭を下げた。 「初めまして、河原悠斗です」 「知ってるー!!」 「……はぁ……」 「ちょっと社長。いつまでそこでキャッキャしてるつもりですか」 「――ぇっ? fratelloの!?」 「すみません。今日はなんでだか私に同席命令が出てまして。……初めまして、大和田(おおわだ)佑真(ゆうま)です」 「知ってます!!」  思わず食い気味に声を上げたら、面食らったその人が照れ臭そうに頭を掻くのを見てようやく冷静になる。 「――すみません。河原悠斗です」 「私もよく存じ上げてますよ。……橋本さんもお久しぶりです」 「久しぶりだね。今日はお世話になるよ。でも、どうして君が? 今日、副社長(小貫)は?」 「ちょっと別件で・・・。社長一人だと心配だし、他のスタッフはまだまだ経験が浅くて、社長が暴走した時に止められないからって、小貫(こぬき)さん直々に頼まれちゃって……」 「なるほど……」 「ほら、いいじゃないもう。座りましょうよ」 「……いや、あんたが一番盛り上がってたんでしょうが……」 「何か言った?」 「……いいえ、なんにも。――どうぞ、こちらです」  案内する姿の違和感のなさにキョトンと見つめていることしか出来ない。彼は元々この事務所のスタッフだったんだよ、とこちらの動揺を察したらしいマネージャーに囁かれて、へぇ、と間抜けな声が出る。  とんとんとまたしても優しく背を叩かれて、佑真の後に続いて応接室らしい部屋に入る。 「……それで。ホントにうちに来たいの?」 「ぁ? えと、……はい」  柔らかいソファに腰かけて早々の質問に一瞬言葉が詰まったものの、なんとか頷いてみせた。 「どうして?」 「それは……」  今の事務所では、和樹と付き合う未来がないから、だなんて言っていいものだろうか。 「うちの事務所は小さいし、橋本さんが来てくださるとはいえ、スタッフもまだそこまで多くない。あなたがしたいと思う仕事は、出来なくなるかもしれないわ」 「……でも、やりたくないことはやらなくていいって、マネージャーに聞きました」 「……まぁ、それは確かに。本人が望まないことは基本的には尊重してるけど。……それは、本当はバラエティには出たくなかったとか、そういうこと?」 「いえ……それは全然。……そういうことじゃなくて……」  言ってもいいものかと迷っていたら、斜め前に座る佑真と目が合った。真っ直ぐなその目に、背筋が伸びる。 「――もう二年くらい前なんですけど……。週刊誌に、撮られたんです」 「……あぁ。確か、……城戸和樹との手繋ぎデートとか報じられてたやつですか? 確か転びそうになってたとこを助けただけだとか言ってましたか」 「付き合ってました、本当は。……だけど、付き合ってないことにされて、結局別れることにもなった。……それはもう、嫌だなって」  簡単には受け入れられないだろうことを言っていることは、自分でも分かっている。朝比奈社長はオレの話を聞いている途中からずっと俯いてしまっている。  しばらく社長の様子を伺っていた佑真が、社長が何も言わないことに痺れを切らしたように口を開いた。 「うちに移籍しても、そうなるかもしれない。……イメージを守るって、そういうことだし。……うちに来たからって、城戸くんとまた付き合えるかって言ったら、」 「――いいわよそんなの! なにその理由!? 尊すぎでしょ!!」 「…………は?」 「……また始まった……」  俯いて肩を震わせていた朝比奈社長の唐突な叫びに、呆気に取られて口がポカンと開いてしまう。  言葉を遮られた佑真はといえば、頭を抱えて呻いていて、隣のマネージャーは「相変わらずだなぁ」なんて呑気に笑っているから、一人混乱するしかない。 「ぇ……っと……」 「どういうことこれ! こんなこと現実にあっていいの!? はーもう尊い! 尊すぎて死ぬ!!」 「……あんたね。いちいち興奮するの、悪い癖ですよマジで。いい加減お客さんの前ではやめてもらえませんかね、いい大人なんだから」 「うるっさいわねもう! ちょっとくらい浸ったってバチ当たんないわよ! 大体ね! 佑真だって奏明(かなめ)くんと付き合ってるくせに! ユウトの気持ち、一番分かるのあんたでしょ!?」 「えぇっ、つきあっ!?」  ビシッと佑真を指差す朝比奈社長の発言に仰天する。奏明とは、恐らく佑真と一緒にデュオを組んでいる相手のことだろう。珍しい名前だし、佑真のリアクションから見ても間違いなさそうだ。 「あー……もう……なんで面倒くさい方に話進めっかなぁ……」  引き受けなきゃ良かった、とボヤいた佑真がガシガシと頭を掻いた後で大きな溜め息を吐く。 「……――そうですね、分かりますよ、確かに。週刊誌に撮られたりなんかして、別れざるを得なくなるかもしれないっていうのは、オレもたぶん、ずっと考えてたことです。……そうなる前に別れた方がいいのかもっていうのはずっと、頭のどっかにあります」 「何言ってんのよ、別れなくていいって何度も言ってるでしょ!!」 「……いや、話が進まないんで、ちょっと黙っててもらっていいですか」 「なぁによもう! 可愛くないんだから!」 「――でも、確かに。何が悪いんだ、オレ達がなんで別れなきゃいけないんだ、とか。多様性の時代だろとかも思います。……だけど、事務所っていう大きな枠で考えた時に、オレ達が付き合ってるって認めた後でどれくらいファンが減って、どれくらい収益が減るのかとか……考えると結構怖いんですよね」 「だから! そんなこと考えなくていいって言ってるの! もう佑真はスタッフじゃなくてタレントなのよ!」 「あのね。だったらこういう場に同席させるの止めてもらっていいですかね。……そもそも、fratelloのマネージャーだって、社長がやるとか言ってたのに結局オレが兼業してるんですよ?」 「……だぁってぇ。あたし、仕事は取ってこれるんだけど、スケジュール管理がどうにも苦手なんだもぉん……」 「……そんなんだから、オレが収益まで考えざるを得ないんでしょうが。…………違いますよ、そんな話はどうでもいいんです。――とにかく。オレとしては、入ってから収益が下がるっていうのは、『不足の事態を除いて、年を重ねたことによって人気を維持できなくなってきた、もしくは仕事量が減ってきたから』っていうリスクだけにしたいんですよ」 「……どういうことですか?」 「つまり、入る前にカミングアウトしておいてもらうってことです」  そう言って、佑真が不敵に笑った。  ***** 「……カズにさ……映画のオファーが来てるんだよね……」  一日の仕事を終えて自宅マンションの出入り口近くに車を付けてくれたマネージャーが、ほんの少し躊躇うように口を開いたのは、明日の予定を確認し終えて車を降りようとしたタイミングのこと。 「ぇっ? 映画!? 凄いじゃん! どんなやつ?」 「……まぁ……また、BLもの、なんだけど……」 「えー……シバモテでイメージ付いちゃったんかな……。まぁ、いいんだけどさぁ? で、どんな感じのなの? また絡みもある感じ? 大丈夫よ、オレ。前もちゃんと出来たじゃん?」  珍しく困惑気味の表情を浮かべるマネージャーを安心させるべくペラペラと喋っていたのに、マネージャーはまだ渋い顔のままで口を開いた。 「……相手役が、悠斗くん……なんだけど」 「…………は?」 「……カズは、どうしたい?」 「ぇっ……と……」 「この間みたいなラブシーンまではいかないけど、キスシーンはある」 「……」 「一応言っとくと……。どうも、悠斗くんからの指名、みたいなんだよね……」 「はぁ!?」 「……。返事は今じゃなくていいよ。……そうだな。短くて悪いけど、三日くらいなら返事は待てるから。考えてみて」 「……」 「嫌なら、ちゃんと断るから」 「……わかった」  真っ直ぐにこちらを見つめる目が、ちゃんと守るよと伝えてくれることに少しだけホッとする。  一応渡しておくね、と手渡された台本がやけに重たい気がして嫌になる。お疲れ様、と労ってくれるマネージャーになんとか笑みを返して車のドアを閉めた。  走り去っていく車を最後までは見送らずにエントランスにノロノロと移動して、待機していたエレベーターをボタンで起こして乗り込む。 (…………なんだよ、指名って……)  階数ボタンを押して壁に凭れながら目を閉じた。  鼻の奥がツンとしてくるのが忌々しい。 「……くそっ」  ぽん、という軽い音の後でゆっくりと開くエレベーターのドアにほとんど体当たりするみたいに駆け出して、自分の部屋の前へダッシュする。  慣れているはずなのに鍵穴にうまく鍵が入らなくてイライラしていたら、ぱたん、と手の甲に鼻水が垂れた。  間に合わなかった。  ぐしぐしと鼻を啜って、滲んでしまった視界をごしごしと拭く。  どうして今更、オレを相手役に指名したりするんだろう。ラブシーンはないけど、キスシーンはあるって。  それってつまり、オレが断ったら他の誰かが悠斗とキスするということじゃないか。  がちゃん、と乱暴な音を立てて鍵を開けて、ドアを思いきり引く。  ばたん、がちゃんとわざと大きな音を立ててドアを閉めたら、ドア伝いにズルズルと玄関で座り込んでしまった。 「……ンなんだよぉ……ッ」  受け取った台本を投げつけようとして、ギリギリのところで思いとどまる。  ひとしきりそのままの体勢で泣いて、涙が落ち着いてきた頃によろよろと腰を上げる。視界の端に入った時計を読んでみれば、車を降りてから小一時間は経っていた。  よたよたと歩いてキッチンに入り、冷蔵庫からミネラルウォーターを引っ張り出す。グラスに注ぐのも億劫で、そのまま口をつけた。冷た過ぎる水が喉を通っていくのが、泣きすぎて火照った体にはちょうどいい。  またしてもふらふらとリビングに移動して、ソファにどすんと腰から落ちる。  『君と明日の約束をしよう』だなんて、当て付けみたいなタイトルだな、と唇が皮肉に歪むのを感じながら、台本をぺらりとめくる。  主演に、悠斗の名前があった。  そして、オレの名前も横に添えられている。まだやるなんて返事はしていないのに。  少しだけ呆れながら、そのままパラパラと台本を斜め読みしていく。ざっと目を通すだけと思っていたはずなのに、読み終える頃にはさっきまでとは違う涙で頬が濡れていた。  余韻に浸って何度もぐじゅぐじゅと鼻を啜りながら、迷いに迷った後で悠斗にメッセージを送った。 『お前、死なないよな』  唐突なメッセージをどう思うだろうとは一瞬考えたけれど、それでも送らずにはいられなかった。  悠斗演じる主人公の深町(ふかまち)は病気を患い、余命宣告をされるのだ。これからどうするか途方に暮れて公園のベンチに座り込んでいたところに、オレ演じる幼馴染みの島田(しまだ)が声をかけることで幕を開ける。  こんなストーリーを、わざわざ相手役にオレを指名してやりたいだなんて、何かの暗示かと疑って不安になっても仕方あるまい。――何か聞かれたらそう言い訳して開き直ろうとドキドキしながら返事を待っていたのに、悠斗から返ってきたのはたったの一言だった。 『電話してもいいですか』  返事を返すより先に、着信を知らせてスマホが震える。この泣き濡れた声で出るのかと迷ったものの、着信を知らせ続けるスマホを前にしては通話ボタンを押すしかなかった。 「…………もしもし」 『死にませんよ』 「…………あ、……うん……」 『読んだんですか、台本』 「……読んだ」 『泣いてたんですね。声がちょっとおかしいですよ』 「……泣くだろ、あんなん」 『相変わらずですね』 「るせ。からかってんのかよ。切るぞ」 『待ってください。そんなことのために電話した訳じゃないんで』  慌てた様子もない声に引き留められて、なんだよ、と拗ねたみたいな声が出た。  何ですかその声、と悠斗が小さく笑う。――あぁ、懐かしいなと胸が少し痛んだ気がして、ふるりと頭を振る。 「――で、何?」 『オレ、事務所移ることにしました』 「は!? え? 何!?」 『だから、事務所移籍するんですって。……あ、まだ誰にも言わないでくださいよ』 「いや……それは勿論だけど。……なんで……だって、最大手じゃん、悠斗のとこって……」 『橋本さんが移るって言うんで、ついていきます』 「ぃや……普通、逆じゃね?」 『……かもしれませんね。でも、そういうことなんで。今の事務所でやる最後の仕事なんです、その映画』 「そう、なんだ……」 『しばらくは、仕事できないというか……業界の暗黙のルールってやつで、控えることになると思うんですけど』 「……あぁ……うん」  突然のことにまともな返事さえ出来ないオレを待ってくれない悠斗が、更なる爆弾を投げに来た。 『製作発表の時……週刊誌報道に触れようと思ってます』 「はぁ!? なんで今更!?」 『そういう意味では、社会的に死ぬかもしれません』 「いやそれ! オレも一蓮托生じゃねぇかよ! 何考えてんだよ!?」 『カズキが一緒に出てくれたら、の話です』 「……それって……」 『一緒に死ぬ覚悟があれば、出てください。じゃなかったら、蹴っちゃってください』 「……ンなこと……三日で決めらんねぇよ……」  マネージャーが提示した期間の短さに呻いているのを黙って聞いていた悠斗が、電話越しにそっと息を吸う音が聞こえた。 『……あの時。……カズキが別れたいって言い出した時……気づいてたんです。うちの事務所に、何か言われたんだろうなって』 「なんで……」 『だから、何も言いませんでした。……カズキのこと、困らせたくなかったんで』 「……ズリィよ……なんだよそれ……」 『もう……嫌なことは嫌っていいたいんです。だから、移籍します』 「……」 『オレは、今もカズキが好きです』 「……やめろよ……なんで今更……」  こんな時に、こんな切り出され方じゃなければ、きっと泣いて喜んだのに。  衝撃が大きすぎて、もう何も考えられない。そういえば晩御飯もまだだ。栄養不足で頭が回らなくて当たり前かもしれない。  なんてくだらない現実逃避をしていたら、またしても爆弾が飛んでくる。 『カズキが出ないなら、オレも出ません。移籍もしません』 「はぁ? お前なに、」 『そうなったら、芸能界は引退します』 「ちょっ……と待てって! なんでそうなるんだよ!?」 『芸能界に未練があるとしたら、カズキのことだけなんで』 「おま……それ、ほとんど脅しじゃん……」 『脅しじゃないです。引退したら、もう一般人なんで。ただの河原悠斗として、アプローチさせてもらいます』 「はぁ!?」 『もしもカズキがこの話に乗っかってくれるなら、芸能人のままでもカズキと付き合えるように、週刊誌報道に触れるってことです』 「お前……」 『オレはカズキが好きです。だから、一緒にいられる方法を探したんです』 「…………お前、重すぎ……」 『すみません。……でも、カズキ以外は何もいらないんで』  ほんの少しだけ笑った悠斗が、きっと真っ直ぐな目をしてるんだろうなと簡単に想像出来る声でオレを欲しがっているのが嬉しくて照れ臭くて、つい思ってもないことが口から出てしまう。 「……だいたい……アプローチされたからって、オレが頷くかどうかなんて分かんねぇじゃん」 『分かりますよ。シバモテ見ましたから』 「あれはだから! お前しか知らなかったからで……っ!」 『あの時のシバ先輩の目、一部で話題になってたの知ってますか?』  照れ隠しで怒鳴るオレの声はあっさり無視した悠斗が、ふと声を低くする。 「話題に……?」 『攻める役なのに、目が攻めきれてないって』 「……なんだよ、それ……」 『オレも感じました。……あんな表情でテレビに映るなんて無防備にもほどがありますよ。付き合ってる時にあんなことされてたら、キッツイお仕置きしてましたからね』 「んなっ!?」 『オレの手順思い出して、ああいう顔になってたんだから、カズキはまだオレのこと好きに決まってます』 「……。……それで、あの時あんな風に聞いてきたのかよ……」 『オレのこと思い出して、オレの手順なぞってたんですよね?』 「…………くっそ……覚えとけよ」 『はい。一生忘れません』 「……だから、いちいち言い方が重てぇんだよ」  呆れ半分――愛しさ半分。そんな気持ちが、声に乗ってしまった。すみません、と耳に直接注がれた悠斗の声も甘く笑っている。  なんだよちくしょう、やっぱすげぇ好き同士じゃんオレら。  そんな風に和んだのも束の間、悠斗はまた真面目な声で話を続ける。 『……とはいえ、社会的に死ぬリスクは否定できません。……心中する覚悟ができないなら、この話は忘れてください』  覚悟を決めた声に、背筋が伸びた。  ニヤリと無理やり、せいぜい不敵に笑ってみせる。 「――いいよ、心中してやる。……この役、やらないで存在自体が消されるなんて勿体無さすぎるし。……シバ先輩のコミカルなオレと、このシリアスなオレ……ギャップすげぇって話題になったら、きっと幅広がるよな」 『……相変わらず……。……羨ましいくらいにポジティブですね』  ふぅ、と安堵の溜め息が小さく聞こえた。どれだけ取り繕っていたって、悠斗の方が年下であることに変わりはない。きっと、今の今までずっと不安な気持ちでいたんだろう。 「それだけが取り柄だからな」 『……ありがとうございます。……じゃあ、また、現場で会いましょう』 「おぅ」  じゃあな、と声を掛け合って通話を終わらせて、そのままの勢いでマネージャーに電話をかけた。
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