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Last Take
結果として、オレ達は二人とも社会的に死なずに済んで、悠斗は無事に新しい事務所に移籍出来た。暗黙のルールってやつに則って、しばらくはのんびり過ごすらしい。
オレの方はといえば、思ってた以上の反響を得た上に、助演男優賞までもらえることになって、授賞式の壇上で恥ずかしながら思わず泣いてしまった。(ちなみに、主演男優賞は悠斗が取った。オイシイとこは持ってくやつだなと思ったし、オレの涙が微妙な感じになってないか心配だ)
時代の流れみたいなものにも随分助けられたんだと思う。
コメンテーター達はまるで示し合わせたみたいに「多様性の時代ですからねぇ」と口にしていた。下手なことを言って炎上するくらいなら、という意識は透けて見えていたけれど、それで救われたのだからヨシとする他ない。
「けどさぁ? これでオレ達が別れたりしたらさ? 絶対みんな、鬼の首取ったみたいに騒ぎ立てるんだろうなぁ~」
「まぁ、そうなるでしょうね」
「ンだよ、他人事みたいにさぁ」
「大丈夫ですよ。だって、別れるつもりなんてないですから」
「いやまぁ……今はそうかもだけどさぁ? なんてーの、……将来的に?」
「死ぬ覚悟で手に入れたんですよ? そう簡単に手放したりしないです」
「……そっか……」
「……安心しました? 顔、緩んでる」
「……るせ」
幸せそうな顔で優しく笑う悠斗の甘ったるい声がくすぐったくて、拗ねた声が出た。オレも、大概甘えているんだと思う。
「……笑っててください、ずっと。カズキが笑っててくれたら、それだけで十分なんで」
「……だから、お前はいちいち言い方が重たいんだってば」
「……本心なんで」
知ってるっつーの。
とは、さすがに気恥ずかしさが半端なくて口には出せなかったけれど、言わせっぱなしなのもなんとなく落ち着かなくて。
もじもじ躊躇った後で、触れるだけのキスを頬に贈った。
「……唇じゃないんだ」
「るっせぇ」
「……ま、いいですけどね。自分でするんで」
「は、っ!?」
全然可愛くない、エロくてヤバいキスに腰が砕けたけど、ベッドの上だから何の問題もない。色っぽくて凶暴な目がオレを愛おしげに見つめてくるのに、腰が甘く疼く。
何かをねだるみたいにじっと見つめ返したら、「あぁっもう、くそっ」なんて呻いた悠斗に頭を抱え込むように抱き寄せられた。
「……ホントに。……こんなに可愛くてよく攻める役なんて出来ましたね」
「うるせぇっつーの。可愛い可愛い言うな。三十超えたオッサンだぞ」
お前より身長だって高いんだからな、と息巻いたのに、はいはい、と笑いながら適当にあしらった悠斗が急に真面目な表情に変わって、睨みつけるみたいな強い視線を向けられる。あんなに相思相愛っぽかったのに、なんで急にこんな今にも刺されそうな恐さを感じるんだろう。
「…………なん、……なんだよ」
「もう二度とああいう顔、カメラの前でしないでくださいよ。オレの前だけにしてください」
「……そんなんオレの知ったこっちゃねぇよ。お仕事は頂けるだけで有り難いんですぅ~」
「……坂本さんに念押ししときますから」
真面目な声がオレのマネージャーの名前を出すのに呆れる。オレの知らないところで二人が連絡先の交換をしていたことを知ったのは、ついさっきのことだ。
久しぶりの休日で惰眠を貪っていた朝っぱらからインターホンを鳴らされまくって、寝ぼけ眼のまま玄関を開けたら、爽やかな笑顔が眩しい悠斗がそこに立っていたのだ。驚きに腰を抜かしそうになりながらどうにか家に招き入れて、「よく休みって分かったな」とぼやいていたら、「坂本さんに確認したんで」とやけにハキハキ言われた時の衝撃ときたら。
「……お前さ……ホント、外堀から埋めるのやめろよ」
「頭脳戦得意なんで」
「……ちょくちょくオレのことバカにすんのもやめろ」
「そこが可愛いんだから問題ないでしょ」
「バカって肯定すんのもやめろ」
「はいはい。拗ねない拗ねない」
「軽くあしらうのもやめろ!」
「はいはい。――もういいから黙って」
「んむっ?」
まだまだ言いたいことはあったけれど。
久しぶりの肌の感触が気持ちいいから許してやるか、なんて心の中で呟きながら、長くて優しくて、だけど何もかもどうでもよくなるほど深い口づけに溺れることにした。
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