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あと少し、あと少し…。
これは、私の友人の仕事仲間が体験した話なんですけどね……。
彼の名前はA君、A君のカノジョの名前をB子さんとでもしときましょうか。
このA君とB子さん、よくドライブデートに出かけてたそうなんですが、じつは二人共通の趣味がありまして、それが心霊スポット巡りだったんだそうです。
そんな趣味の合うところから付き合うようになったというか、どちらも怪奇現象とかオカルト好きだったんですね。
で、ある年の秋口のこと、その日も夜がふけるのを待って、関東の某所にある有名な廃トンネルへ出かけたんです。
この廃トンネル、中で女の叫び声が聞こえただとか、白い女の影を見ただとかいうウワサがあったんですが、昔、まだ現役のトンネルとして使われていた頃に女性の轢き逃げ事件がありまして、その被害者の霊なんじゃないかといわれていました。
さて、曲がりくねった細い山道を進み、そのトンネルの近くまで来たA君達でしたが、トンネルといっても今は使われていない廃トンネルですからね。そこへ続く旧道も放置されたまま荒れ放題になっていて、アスファルトもひび割れてデコボコだし、雑草もボウボウで、もう車ではそれ以上進めないんです。
そこで、仕方なく旧道に乗り入れて車を止めると、そこから二人、歩いて廃トンネルを目指すことにしました。
街灯も何もない真っ暗な闇の中、懐中電灯の明かり一つだけで悪路を進んで行くA君達でしたが、そこはもう心霊スポットに行き慣れているせいなのか?特に怖いとか、そういう気持ちにはならなかったようですね。
むしろ、新鮮な山の空気を吸いながらの夜のお散歩みたいで、清々しいような気分すらしていたそうです。
でも、そうして山道を歩いて行って、ようやく件の廃トンネルへたどり着くと、やっぱりそこはゾクっと背中が寒くなるような不気味な場所だったんです。
入口は古い煉瓦を積んで造ってある感じなんですが、その煉瓦もだいぶ朽ちていて、枯れた蔦が全体に絡まっているんですね。
もちろん、内部も明かりなんて点いてませんからね。その煉瓦を積んだ四角形の真ん中に、まるで墨を塗ったかのような真の暗闇が、ぽっかりと半円形の口を開いてそこにあるんです。
その漆黒の口の奥からは、なんだかひんやりとした冷たい空気が流れ出しているような気もします。
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