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「ゴム会社のそば」
そこは広い原っぱの中に有る四けん長屋だったと思ふ。何しろ三、四才の時だから、はっきりおぼへて居ない。
ところでところで おぼへて居る事が二、三有るので書く事にする。
何しろ今とちがって困る暮らしの人ばかりだった。
其の頃、父は体がよわくて一番困ってた時期だらう。
母が仲よくしている人にお金を借りに行くらしく、兄と妹をつれて行くがよしも行くかと言はれたが、ねむいから行かないと言った。
其の時の事はハッキリおぼへて居るのだ。
そして三人は出かけたが少し立つと淋しくなったので家からとび出して見ると(ちょうど秋だったと思ふ)月あかりに三人がはるか遠くの橋をわたって行くのが見へた。
追ひかけてもとても間に合わないと思ったので一人家に入った。
なぜか其の夜は父は居なかった。
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