俺を食べてくれ

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その日の夜、上陸部隊に選ばれた陸軍の歩兵たちは、「勝ち戦だ」「弔い合戦だ」とどんちゃん騒ぎをした。――米兵は腰抜けのヤンキーだ、国よりも家族と自らの命をおもい、まともに戦おうとしない。そう教えられてきたが故の騒ぎだった。敷地内は、もう夜だというのに明るい。騒がしい雰囲気とところどころについている灯りに誘われたのか、虫がぱちぱちと音をたてながらその周りを飛ぶ。 遠くで影となって佇んでいる、名も知らぬ山々。 明日への英気を養おうと、顔を赤くして騒ぐ兵士。 数多の星がきらめく夜空。 低い位置に浮かぶ、下弦の月。 こんな時間まで灯りが煌々とついていることなどないため、目の前にひろがっている風景や光景、そのすべてが新鮮で、異様だった。騒ぐ兵士たちを輪から離れたところからぼんやりと見ていると、不意に肩に重さが乗る。 「樋口、樋口! 明日は勝負の日だ、ぱーっといこうじゃないか!」 もうすでに何杯か飲んだらしく、彫りの深い眼の周りをほんのり紅くした有明が、樋口の肩に寄りかかるようにして言った。酒のにおいが鼻をかすめたが、樋口も笑って「ああ」と答え、その騒ぎに加わる。隣で酒器をかかげ「もっともっと」と騒ぐ有明を見て、樋口は千葉の歩兵学校にいた頃、居酒屋で日本酒を何合も何合も平気で呑んでいた彼の姿を思い出した。周りにいた客にやんややんやと騒がれ煽られても、平然とした顔で呑み続けていた彼――有明は酒にめっぽう強い。
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