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と、そのとき、樋口と有明を太い声が呼んだ。声の方を振り向くと、大柄な男性が立っている。「――部隊長」
ふたりが持っていた酒器を下げて思わず敬礼すると、「よせよせ」と照れ臭そうにしながら、その角ばった大きな手を振った。
「樋口、有明、明日はよろしく頼んだぞ」
そう言って、ニカッと笑いながら二人の肩を強く叩く。そしてそのまま強引に引き寄せ、耳元で「きつい戦いになるだろうが、貴様らがいるなら少しは違うな」と低い声で言いながらやわらかい笑みを浮かべた。樋口有明が顔を見合わせると、部隊長は少し離れた場所で騒ぐ兵士たちを目を細めて眺めながら、
「……ガダルカナルは、きつい」
「部隊長は行ったことがあるのですか」
「いや、ない。中国ならあるがな。……だが、アメ公をあまく見るな」
近くでわっと沸き起こる笑い。それに合わせるように、甲高い口笛が響き渡る。
夜は、深い。
呆然とした表情で部隊長の顔を見ていると、部隊長は耐えかねたように吹き出し、「貴様ら、こんな脅しに慄いたか」と大笑いする。樋口と有明はふたたび顔を見合わせ、部隊長につられたように大笑いした。
「ほら、樋口、有明、遠慮せずに呑め呑め!存分に酔え!」
笑い声が絶え間なく響く基地。
下弦の月は、ただひっそりと樋口らを見下ろす。
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