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ここで護符を出しても大丈夫だろうか。幸いにも、後方からやって来る人は今のところ途切れている。
もう少し秋が深まると紅葉が綺麗でもっといい感じなんだけどな、と凪が言う。これ以上ロマンチックな光景になったらまるでデートしているみたいな気分になって私は正気を保てない。
改めて周囲を確認してから、私はバッグから護符を取り出した。この護符に彼が触れれば契約成立となる。
「それじゃあ凪、改めて私と――」
距離を詰めて来た凪は私の目の前で片膝を着くと、護符を包み込むようにして私の手を握った。実体を得た彼の手が私のことを引き寄せる。そしてそのまま顔を近付けて、彼は私の手にキスをした。
「っ!?」
心臓が飛び上がったようだった。縁側でされた時よりもどきどきしている。速まる鼓動は治まることを知らず、このまま体から心臓が零れ落ちそうだった。
紅葉がなくてよかったと思ったが、むしろあってくれた方がよかった。赤や黄色の葉に囲まれていれば、鳥居の朱色も相まって顔の赤みを誤魔化せていたのに。顔どころか、全身が熱い。繋がった手から鼓動が伝わっていないだろうか、握った護符に汗が滲んでいないだろうか。頭の中が重力を無視してぐるぐる回りそうだ。
顔を上げた凪は優しく微笑む。
「煌羽」
上手く返事ができなくて、私の口からはよく分からない音が出た。
「御前の傍にいられて嬉しい。これからもよろしく頼む」
無理やり頭を落ち着かせ、深呼吸をしてから私は彼の手を握り返す。
「……うん。よろしくね……!」
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