肆 これから先も

6/6
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/104ページ
 ここで護符を出しても大丈夫だろうか。幸いにも、後方からやって来る人は今のところ途切れている。  もう少し秋が深まると紅葉が綺麗でもっといい感じなんだけどな、と凪が言う。これ以上ロマンチックな光景になったらまるでデートしているみたいな気分になって私は正気を保てない。  改めて周囲を確認してから、私はバッグから護符を取り出した。この護符に彼が触れれば契約成立となる。 「それじゃあ凪、改めて私と――」  距離を詰めて来た凪は私の目の前で片膝を着くと、護符を包み込むようにして私の手を握った。実体を得た彼の手が私のことを引き寄せる。そしてそのまま顔を近付けて、彼は私の手にキスをした。 「っ!?」  心臓が飛び上がったようだった。縁側でされた時よりもどきどきしている。速まる鼓動は治まることを知らず、このまま体から心臓が零れ落ちそうだった。  紅葉がなくてよかったと思ったが、むしろあってくれた方がよかった。赤や黄色の葉に囲まれていれば、鳥居の朱色も相まって顔の赤みを誤魔化せていたのに。顔どころか、全身が熱い。繋がった手から鼓動が伝わっていないだろうか、握った護符に汗が滲んでいないだろうか。頭の中が重力を無視してぐるぐる回りそうだ。  顔を上げた凪は優しく微笑む。 「煌羽」  上手く返事ができなくて、私の口からはよく分からない音が出た。 「御前の傍にいられて嬉しい。これからもよろしく頼む」  無理やり頭を落ち着かせ、深呼吸をしてから私は彼の手を握り返す。 「……うん。よろしくね……!」
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!