挨拶

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挨拶

「こんにちは。もしよろしければ、少しお話ししませんか?」  天気が良いある日、窓を開けていると、だれかが話しかけてきた。これまでだれも、少女の存在に気づかなかったのに。   驚いた少女は、声のほうへ顔を向ける。  洋館の門扉の前に、ひとりの青年が立っていた。にこにこと愛想の良い笑みを浮かべ、少女を見つめている。 「僕の声、聞こえてますか?」  少女はこくこくと頷いた。決して大声ではないのに、青年の声は少女の耳に心地良く響いていた。   「声が届いて良かったです。もう少しだけ近づいてもいいですか? ここからではあなたの声が聞こえないと思うので」  少女はしばし考えた。初めて話しかけてくれた人が現れたとはいえ、身も知らぬ男性だ。いきなり傍に近づけさせるのは抵抗がある。  迷った末に、少女は二階の窓のすぐ下を指し示した。 「門を開けて、お庭に入っても良いということですか?」  少女は再び頷いた。二階の窓の下ならば、自分の声も届くし、男性の顔もしっかり見られると思ったのだ。 「ありがとうございます。ではお邪魔致しますね」  青年は丁寧に頭を下げると、蔦が絡まった門に手を置いた。きぃぃーと悲鳴のような音を立てながら、門がゆっくりと開かれていく。  少女は二階の窓から、青年の動きをじっと見つめていた。 「これは立派なお庭だ。うっかり花を踏み潰さないように気をつけますね」  庭には草花が生い茂り、中には青年の顔に届きそうなほど伸びた草もあったが、青年は草花をかき分けるようにゆっくりと近づいてきた。  少女が示した窓の下まで到着すると、青年は顔をあげて少女を見つめた。        
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