入室

1/1
前へ
/7ページ
次へ

入室

 神永は毎日、少女のところへやってきた。晴れの日も雨の日も、風の日も雪の日も。一日も欠かすことなく、少女のところへやってくる。ただ彼女の話をするために。  天気のことや地域のこと、好きな食べ物や趣味の話。たいした話ではなかったけれど、少女にとっては知らないことばかりだった。  いつしか少女は、神永が来るのを心待ちにするようになった。   強い風と激しい雨が降る日、風で傘が壊れてしまったのを見かねた少女は、神永に伝えた。 「どうぞ中へ入って」 「え、いいんですか?」  青年はずぶ濡れになったまま、窓際の少女を見上げている。 「ええ。濡れてままでは風邪をひいてしまうもの」  少女と話をするために毎日通ってくれる神永ならば、家の中に呼び入れても問題ないはずだ。少女にとって神永は、すでに親しき友でもあった。 「早く入って。わたしは二階にいるわ」 「ありがとうございます!」  神永はぺこりと頭を下げると、しなびた洋館の扉を開けた。ぎぃぃと鈍い音が響き、扉がゆっくりと開放されていく。しなびた洋館に光が差し込んでいくのを、少女は感じとっていた。  かたん、ことん、かたん。  少女がいる二階へ通じる階段を、神永が静かにのぼってくる音が聞こえる。  足音がだんだんと近づいてくる。少女は黙って神永を待った。 「こんにちは」  神永だ。少女はゆっくりと声のほうへ体を向けた。  きぃぃー。  悲鳴のような音と共に、少女は神永のほうへ体を向けた。 「神永さん、あなたが来るのを待っていたわ」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加