12人が本棚に入れています
本棚に追加
入室
神永は毎日、少女のところへやってきた。晴れの日も雨の日も、風の日も雪の日も。一日も欠かすことなく、少女のところへやってくる。ただ彼女の話をするために。
天気のことや地域のこと、好きな食べ物や趣味の話。たいした話ではなかったけれど、少女にとっては知らないことばかりだった。
いつしか少女は、神永が来るのを心待ちにするようになった。
強い風と激しい雨が降る日、風で傘が壊れてしまったのを見かねた少女は、神永に伝えた。
「どうぞ中へ入って」
「え、いいんですか?」
青年はずぶ濡れになったまま、窓際の少女を見上げている。
「ええ。濡れてままでは風邪をひいてしまうもの」
少女と話をするために毎日通ってくれる神永ならば、家の中に呼び入れても問題ないはずだ。少女にとって神永は、すでに親しき友でもあった。
「早く入って。わたしは二階にいるわ」
「ありがとうございます!」
神永はぺこりと頭を下げると、しなびた洋館の扉を開けた。ぎぃぃと鈍い音が響き、扉がゆっくりと開放されていく。しなびた洋館に光が差し込んでいくのを、少女は感じとっていた。
かたん、ことん、かたん。
少女がいる二階へ通じる階段を、神永が静かにのぼってくる音が聞こえる。
足音がだんだんと近づいてくる。少女は黙って神永を待った。
「こんにちは」
神永だ。少女はゆっくりと声のほうへ体を向けた。
きぃぃー。
悲鳴のような音と共に、少女は神永のほうへ体を向けた。
「神永さん、あなたが来るのを待っていたわ」
最初のコメントを投稿しよう!