スコシン

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スコシン

「なあ、スコシンって、知ってる?」 「なにそれ」 「少ない神様と書いて少神。小さな神社らしいんだけどさ。そこ、願い事がよく叶うんだって」 「え?マジで」 「うん。ただし、大きな願いはだめなんだ。小さな願いじゃないと」 「小さな願いって、どんな」 「例えば、もう少しだけ成績がよくなりたいとか、もう少しだけお小遣いが欲しいとか、そんなささやかな願いを叶えてくれるそうなんだ」 「へえ。でもそんな小さな願いだと、本当にその神様のおかげかどうかわかんないだろ。本人の努力の結果かもしれないし」 「いやいや、実際に俺も願いが叶ったんだけどさ、なんの努力もしてなかったんだぜ。それも効果が出たの、神社にお参りした次の日だよ」 「だったら試しに俺も行って見ようかな……。おい、場所教えろよ」 「ナイショだぞ。少神ってのは……」  カフェで後ろの席に座った男達の会話に知らず知らず聞き耳を立てていた。そこに出てきた地名を何度も口の中で呟き、記憶にとどめる。 「それからこれだけは注意しろ。大きな願い事はするな。とんでもないことが起こるみたいだから」 「とんでもないことって、なんだよ」 「知らん。神仏の祟り系は怖いから試す気にもならん」  大きな願いとはどんなものだろう。大金持ちになりたいとか?豪邸に住みたいとか?高級外車に乗りたいとか??イケメンの彼氏が欲しいとか?  フッとつい笑いがこぼれた。  少なくとも今の私にとって、それらはほぼ興味の無いことだ。学生時代に起こしたネット関連の会社が急成長を遂げた。それが大手企業の目に留まり、買収されたことで私の銀行口座には10桁以上の数字が並んでいるのだ。よっぽどの浪費家ではない限り一生使いきれない金額だ。  ただ、イケメン彼氏には興味を惹かれる。私には子供の頃から人より容姿が劣っているという自覚があった。だから異性にはまったく目もくれず、ただ勉強だけをがんばってきた。会社を興したのだってその延長だ。ずっと一人で生きていく覚悟の上でのことだった。  お金を持てば男は寄ってきた。でもそれは私の銀行口座が目当てであって、私の魅力に引き寄せられたものではないことは明らかだった。  もし私の容姿がもう少しましだったなら。もう少し目が大きかったら?もう少し鼻が高かったら?もう少し小顔だったら?男は金でなく私自身を見てくれるだろうか。  お金があるのだから整形でもすればいいと人は思うかもしれないが、私にはその踏ん切りが付かなかった。健康な体にメスを入れるという行為にはどうしても拒絶感を覚えてしまうのだ。  だったら神様にお願いしてみよう。ささやかな願いなら何でも叶うという神様に。  私はすぐさま地図アプリを呼び出して、覚えたばかりの地名を検索した。
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