スコシン

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 それは本当にあった。神社というよりもただの祠といった感じだ。鳥居は無いし、鳴らす鐘も無い。賽銭箱はそのまま持ち去られそうなサイズだ。それでもせっかくここまで来たのだから、とりあえず願掛けだけはしておこう。  少しだけ奮発して大き目の小銭を投げ入れ、拍手を打つ。それから心の中で願った。  神様。もう少しだけ、目を大きくしてください。小さい頃から一番のコンプレックスだったんです。この細く釣りあがった目が。どうか、お願いします。  一礼してから社を離れる。そして急いで鏡を見た。さすがにこんなすぐには変らないようだ。  次の日、顔を洗おうと鏡を見て驚いた。パッチリとした二重になっている。眠いときや目を擦ったときに時々こんな状態にはなることはあったが、そのときはすぐに元に戻ったものだ。でも今回はどれだけ瞬いてもひねくり回しても一重に戻ることはない。それに、整形とはちがいナチュラルだ。  すごい。本当に願いが叶った。身支度を整えた私は意気揚々と家を出た。  すれ違う人の反応。心なしか昨日までとは違うように思えた。特に男の反応。なんだか視線を感じるのは気のせいだろうか。  さりげなく鏡で自分の顔を確認する。うん。朝見たままの二重だ。でも、そのときは気づかなかったけど、目が大きくなったせいで、今度は鼻の形の悪さが余計に目立ってしまう。  だったらもう一度、神様にお願いしよう。そうだ。善は急げ。私は急いで家に戻り、車に乗り込んだ。  翌朝、期待に胸を膨らませて鏡を見た。願いどおり、鼻が少しだけ高くなっていた。色んな角度から自分の顔を眺め悦に入る。でも、そのうちにまた別の部分が気になりだした。顔の大きさだ。目鼻立ちはましになったけど、輪郭が元のままだ。  しょうがない。すぐに身支度を整え、また例の神社に向かった。  確かに顔は少し小さくなっていた。ところが一番気になっていたエラが張り出したままだ。直して欲しかったのはここだったのに。ただ少しだけ顔を小さくしてくださいと願うだけじゃ駄目だったのか。  私は少し苛立ちを覚えながら、クルマのキーを手に部屋を出た。  四度目の神社。小さな賽銭箱に一番大きな紙幣を突っ込み、拍手を打った。  神様。お願いです。もう少しだけエラの張りを抑えてください。ここが一番のコンプレックスだったんです……と、そこまで祈って思い出した。そうだ。目だ。確かに目は二重で大きくなった。でも、目と目の間は広いままだった。  神様。もう少しだけ両目の間隔を狭めてもらえないでしょうか……あ。それなら鼻もだ。確かに高くはなったけど、形は殆ど変っていなかった。  神様。もう少しだけ、すらっとした鼻筋にしてもらえないでしょか……。だったら口も直したほうがいいんじゃない?薄い唇は幸薄そうだ。  神様。もう少しだけ、唇を厚くセクシーにしてもらえないでしょうか……。いや待て。それならいっそ顔全部をよくしてもらったほうが手っ取り早いんじゃないの?  神様。もう少し私を美人にしてもらえないでしょうか。どうか、お願いします。  最後に一礼してから車に戻り、エンジンをかけた。ふふ。明日が楽しみだ。  気分が高揚していたからだろうか。少しばかりスピードが出ていたようだ。カーブを曲がろうとしたが曲がりきれず、私は沿道の木に正面から突っ込んでしまった。
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