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「佐鳥、お前、MSDって知ってる?」
「ん? ポンデリンゴが買えるドーナツの店か?」
「確かに! 上手い! 日本語カタカナを略すとそうなるけど違う!」
「??? お〜、一瞬言われても分からなかった。絶対に正解だと思った」
俺はクラスメートでヤンキーフレンズの鴨吉に呼び出されてヤツの部屋にいる。
何やら珍しい物を手に入れたから一緒に嗜みたいとのことだ。
「鴨吉、んで、なんなのよ? MSDってさ」
鴨吉はカバンから少量の白い粉の入ったポリ袋をつまみ出して目の前に差し出した。
「は? 小麦粉? 粉砂糖?」
「は? 何言っちゃってんのよ佐鳥ちゃん? 俺たち、ここらじゃ有名なヤンキーコンビの『ダブルバード』じゃねえか! もちろん薬だよヤク! ヤンキーたるもの、一回もキメたことないなんて恥ずかしいだろ?」
「なこたねぇだろ。キメないヤンキーも沢山いるぜ」
俺はかなりビビっている。金髪にするのもピアスタトゥー人間になるのも厭わないが、薬はヤバい、理由なくヤクはヤバい。
「何ですか? 泣く子も黙る佐鳥さんは薬ごときでビビってるんですか?」
鴨吉は急に優等生的な口調になる。俺はヤツを無視した。
「佐鳥、俺ら来年から離れ離れだろ? だから最後のクリスマスの思い出にこんなのも良いだろ?」
俺らは高校三年で、今年が一緒に過ごす最後のクリスマスだ。鴨吉は長良川の鵜匠への弟子入りが決まっている。俺は北海道のウニ漁師になる予定だ。
「分かった。飲もう」
「やったー!!! コーラに入れよう!」
鴨吉はコーラに薬を入れる。炭酸がボッと湧き出す。
「カンパーイ」
鴨吉が一気に飲んで「ゲブッ」と言う。
俺も一気飲みしようとしたがMSDがどんな薬か聞いてないことを思い出した。
「鴨吉、でMSDって何の薬なの? どんなトリップになるの?」
「ん〜『もう少し茸』ってキノコの粉末で〜あともう少しだけやりた〜いって欲望があふれ出すクスリ〜」
「なんだそれ? 気持ち良くなんないの?」
「ん〜サトリ〜、俺、効いてきたみたい」
鴨吉がよろよろしている。
俺は鴨吉を支える。
「サトリ〜、俺、もう少しだけお前と一緒にいたい。もう少しだけ距離が近くなりたい。もう少しだけ優しくされたい。もう少しだけ触れ合いたい。もう少しだけ将来の話をしたい。もう少しだけ子供の時の話を聞きたい」
「鴨吉、大丈夫だって。離れてもずっと心は一緒だから。これからも沢山話そうぜ、沢山遊ぼうぜ」
「サトリ〜、もう少しだけ親密になりたい。もう少しだけ女の子として扱って欲しい」
「鴨吉、好きだって素直に言えよ。俺はもうずっとずっと前からお前の彼氏気取りだぜ」
俺は鴨吉真奈美を優しく抱き寄せた。
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