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そうだ。恋文を書こう
······私の名は桜田かよ。何処にでもいる普通の女子高校生だ。今日私は十七歳の誕生日を迎えた。
その記念する日を理由にして、私はある行動を決意していた。いや。そうでもしないと私は何時まで立っても重い腰を上げない。
私は万事が無精な性格だ。朝ベットから起きるのが面倒臭い。着替えるのも、顔を洗う事も、朝ご飯を食べる事すら億劫だ。
学校までの徒歩十五分の道程も。つかまると二分待たされる交差点の信号待ちも、学校の授業も、友人達との付き合いも。
全てが私にとって難儀な事だらけだった。断っておきたいが私は決して学校や勉強が嫌いな訳では無い。
友人との会話は楽しいし大切だと思っている。だが、全てに優先して面倒だと言う感情が湧いてくるのだ。
私は友人になれそうな相手には率先して自分のこの性格を説明する。無精者の私もこの瞬間だけは真面目に、そして熱心に自分をアピールする。
その甲斐あってか、幸い友人達には恵まれ
、友人達は私のこの厄介なキャラクターを受け入れてくれた。
友人達は重要連絡事項以外は、決して私にラインメッセージを送らない。学校帰りお茶する誘いすら気軽に自由選択をさせてくれる
。
「······実は。私もかよに近い考えなの」
学校の帰り道、友人の一人貴子がそんな事をポツリと漏らした。四六時中、友人同士のラインで拘束される日々に疲れを抱く者はどうやら少なくないらしい。
そんなある日の夜、私は自宅の部屋で机の上にかじりついていた。水色の便箋とひたすら睨み合い、一文字一文字を呻きながら書いて行く。
そう。私は今、人生で初めての恋文を書いていた。無精者の私がこんな面倒な事をしているのには理由がある。
明日は私の十七回目の誕生日だ。特に自分の生まれた日に感慨を覚えた訳では無かったが、私はこの日を理由にしてある行動を決意した。
「······そうだ。明日誕生日だし、記念日に早稲田君に告白しよう」
何の脈絡も無く、私は片思いの早稲田君に告白する事を決めた。早稲田君は隣のクラスのイケメンだ。
若者なのにさり気なく渋さがあり、気骨がありそうな男子だ。隣のクラスには去年のクラスメイトがおり、私はその元クラスメイトを通じて早稲田君とは軽く話をする関係を築いていた。
元クラスメイトの情報によると、早稲田君は一ヶ月前に彼女と別れて今はフリーらしい
。
早稲田君とはラインのやり取りはしていない。ラインでの告白は不可能だ。ならば直接対面での告白。だがそれは絶対に無理だ。
「うわあ。告白って面倒臭いなあ」
ってな感情が絶対に顔に出るに決まっている。自分の無精さには我ながら辟易してしまうが、残された手段は手紙しかない。
『貴方の事が前から好きでした。良かったら私と付き合って下さい』
この簡潔極まりない文章を書き切るのに一時間以上を費やした。明日が自分の誕生日であり、それをきっかけにしなければ恋文一つ書けない無精者。
こんな女子と付き合ってくれる男子が存在するのだろうか?と、思いながら私はベットに倒れる様に寝転んだ。
精神的に消耗仕切った私は、夢を見る元気も無く深い眠りに落ちた。
明日は素敵な誕生日になるか。苦い誕生日になるか。どちらにせよ、それも私の青春の1ページとなるのだ。と、思いたい。
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