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だって。告白する相手が不在だったから
翌日。無事誕生日を迎えた私は、飼い犬の秋田犬ファミリアに見送られ意気揚々と学校に赴いた。
告白のタイミングは決めていた。お昼休みの時間だ。私は隣のクラスにさり気なく顔を出し、元クラスメイトを通じて早稲田君に接触を図る。
そして早稲田を外に誘い出し、昨夜難産の末に書き連ねた恋文を渡す。正直勝算は薄かった。
早稲田君はイケメンだし、私の容姿は平凡だ。多分、友達以上に思えないと言われるのが関の山だ。
そして早稲田君に振られた私は自分をこう慰める。かよ。無精者のアンタがラブレターを書いただけでも万歳物よ。と。
小心者の私は、自分のアフターケアまで用意していた。そして無精者の私は、早くこの面倒臭い儀式を一刻も早く終わらせたいとも願っていた。
そして待望のお昼休みが到来した。私はそそくさと隣のクラスに侵入し、元クラスメイトの詩織に声をかける。
「え?早稲田君?今日風邪で休みだよ」
昼食を摂っていた詩織の衝撃的な言葉に、私は数秒固まった後作り笑いを残して即時撤退した。
自分のクラスに戻った私は、ショックと動揺を隠す為にかなりの労力を必要とした。
「かよ。大丈夫?顔が悪いわよ?」
少し天然な性格の貴子が、お弁当を食べながら邪気の無い顔で私に暴言を吐く。
「や、やだなあ。貴子。それを言うなら顔色でしょう?顔が悪いって百パー悪口よ。それ
」
「だってかよ。アンタ顔が地滑りしているみたいよ。元が崩落気味なのに、それじゃあ、横揺れじゃなくて縦揺れよ。縦揺れ」
私は友人の貴子の名誉の為に言っておきたい。貴子は決して底意地の悪いビッチでは無い。
ただ、国語的にちょっとセンスが無いだけだ。そう。ほんのちょっとだけ。でも、時折
今みたいに最早突っ込みも入れる隙間の無い発言をされると、私に出来る事は絶句しかなかった。
放課後、私はモヤモヤした気分で教室を出た。多分、今日私が持参した恋文は二度と日の目を見ることは無いだろう。
今日が自分の誕生日だから。それを理由にしたからこそ、無精者の私が告白なんて行動に出られたのだ。
でも、その相手である早稲田君が欠席である以上、告白のタイミングは完全に逸した。私はもう、早稲田君に告白なんてしないだろう。
無精者の私にそんな気力が湧いてくる筈も無かった。
「桜田。何か落としたぞ」
気分が落ち込み、一刻も早く自宅に帰りふて寝をしたかった私に、クラスメイトの駒沢君が声をかけてきた。
駒沢君は仲の良いクラスメイトだ。私が一緒にいる女子グループ達にも受けがいい。人当たりが良く、温厚誠実。何度か友達同士で遊びに出掛けた事もある。
実は、駒沢君は私の中で早稲田君に次いで二番目に好きな男子だった。好きな人に序列をつけるなんて本当は良くない事だと分かってる。
でも、自分の心には嘘はつけない。そん駒沢君が拾ってくれた私の落し物は、一通の白い封筒だった。
それは、私の帰宅後破棄される筈のラブレターだった。
「······それ、駒沢君にあげる。良かったら読んでくれる」
あれ?私今なんて言った?それ、早稲田君に書いてきた恋文よ。そのラブレターを駒沢君にあげてどうするよの?
「え?俺に?これって封筒だろう。中に何が入ってんだ?」
怪訝な表情の駒沢君が封筒の中から水色の便箋を取りだし一瞥する。その途端、駒沢君は分かりやすく赤面する。
「え?さ、桜田?これって告白って事か?」
駒沢君が短い髪を掻きながら動揺する。その様子を見ながら、流石に私は自己嫌悪に陥る。
「······ごめんね。駒沢君。その手紙、本当は別の人に渡すつもりだったの」
え?じゃあ、これってドッキリなのか?的な顔をする駒沢君に、私は全て話した。
「······なるほど。俺がこの手紙を拾ったのを見て思わず渡してしまったと。に、二番目に好きなのが俺だったから」
放課後の屋上で、私と駒沢君は並んで座っていた。駒沢君の言葉に私は黙って頷く。烈火の如く怒ると思ったが、駒沢君は意外と冷静だった。
「まあ。分からないでもないけどな。その序列ってヤツも」
駒沢君のこの発言に、私は息を吹き返した死人の様に立ち上がった。
「······駒沢君も?駒沢君も好きな女子に順位があるの?」
「え?い、いや。そうはっきり順位って言われると答えにくいんだけど」
「因みに私は何位?駒沢君の好きな女子ランキングで何位?あ、と言うか圏外よね?当然よね。ラブレターを使い回す女なんて最低よね」
私は自分の言葉で再び自己嫌悪に陥り項垂れる。
「お、おい桜田。そんなに落ち込むなって」
駒沢君が慌てて私に声をかけてくれる。優しいなあ。駒沢君って。こんな最低女に。ん
?あれ?
駒沢君が私から恥ずかしそうに顔を逸している。そして右の手の平を私に向けている。
その手の平は親指が畳まれ、残り四本の指が立てられていた。
······指四本。四。四位?え、ええ。四位?それ、四位って事?
私のその問いかけに、駒沢君は気まずそうに頷いた。
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