1.いなくなったペット

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 鳩の姿で飛び立とうとした(たけ)()だが、「最初から猿でも良かろう」と言って、地面の上で日本猿の姿に変身する。それから何をするのだろうと思っていると、家の左の角へ向かってスルスルと歩いて行った。 「そっちは――!」  まさか表に回って玄関から侵入するのかと思って、慌てたミコトは(たけ)()に向かって手を伸ばしたが、(たけ)()は左角にあった(たて)(どい)――雨水を排水口へ流す縦方向のパイプ――を伝って木登りの要領で上に向かう。  よくあんな所を登っていくものだと感心していると、あれよあれよと二階に達する。それから、窓のレールへ飛び移って両手でぶら下がり、右手を伸ばして掌を窓に当て、右方向へスライドすると、窓はガラガラと音を立てて開いた。  ――やはり、窓は開いていた。  音の大きさにギクッとしたミコトは、隣の家の窓から誰か顔を出さないかと心配したが、幸い、気付かれなかったようだ。  ミコトが視線をマリンが立っていた方へ向けると、すでにマリンの姿はなかった。上を見ても、猿の姿の(たけ)()が窓枠にしゃがんで中を見ている後ろ姿のみ。小さな尻尾がフリフリ揺れているのが可愛いが、お尻をしっかり見てしまった。  すでに、マリンは喜び勇んで部屋の中へ入っていったのだろう。 「クーン! クーン!」  ――ああ、シロの甘える声がする。 「シロ! シロ!」  ――マリンの涙声が漏れ聞こえてくる。  感動の再会。  間近で見ている(たけ)()が羨ましい。  涙を誘う場面に立ち会えず、声だけしか聞こえないのがとても悔しい。喜びと悔しさで涙腺が崩壊したミコトは、両手の甲で涙を拭う。  それから1分ほどして、(たけ)()は樋を伝って地上に降り、白い子犬を抱えたマリンが窓から姿を現して、外へ飛び出し、フワリと地上へ舞い降りた。
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