7人が本棚に入れています
本棚に追加
鳩の姿で飛び立とうとした長子だが、「最初から猿でも良かろう」と言って、地面の上で日本猿の姿に変身する。それから何をするのだろうと思っていると、家の左の角へ向かってスルスルと歩いて行った。
「そっちは――!」
まさか表に回って玄関から侵入するのかと思って、慌てたミコトは長子に向かって手を伸ばしたが、長子は左角にあった竪樋――雨水を排水口へ流す縦方向のパイプ――を伝って木登りの要領で上に向かう。
よくあんな所を登っていくものだと感心していると、あれよあれよと二階に達する。それから、窓のレールへ飛び移って両手でぶら下がり、右手を伸ばして掌を窓に当て、右方向へスライドすると、窓はガラガラと音を立てて開いた。
――やはり、窓は開いていた。
音の大きさにギクッとしたミコトは、隣の家の窓から誰か顔を出さないかと心配したが、幸い、気付かれなかったようだ。
ミコトが視線をマリンが立っていた方へ向けると、すでにマリンの姿はなかった。上を見ても、猿の姿の長子が窓枠にしゃがんで中を見ている後ろ姿のみ。小さな尻尾がフリフリ揺れているのが可愛いが、お尻をしっかり見てしまった。
すでに、マリンは喜び勇んで部屋の中へ入っていったのだろう。
「クーン! クーン!」
――ああ、シロの甘える声がする。
「シロ! シロ!」
――マリンの涙声が漏れ聞こえてくる。
感動の再会。
間近で見ている長子が羨ましい。
涙を誘う場面に立ち会えず、声だけしか聞こえないのがとても悔しい。喜びと悔しさで涙腺が崩壊したミコトは、両手の甲で涙を拭う。
それから1分ほどして、長子は樋を伝って地上に降り、白い子犬を抱えたマリンが窓から姿を現して、外へ飛び出し、フワリと地上へ舞い降りた。
最初のコメントを投稿しよう!