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シロは、犬種は分からないが、雪のように真っ白な毛を持つ犬だった。ちょうど、雲の中から月が現れたので、体が闇の中に浮かび上がり、ミコトはスピッツではないかと思った。
「おねえちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
「わらわのお陰よ。感謝せい」
日本猿の姿のままでいる長子がマリンに向かって胸を張る。
「いくよ、しろ」
マリンはシロを優しく抱え直して、ミコト達に背を向けて墓場の中へ入って行く。そうして、月明かりに照らされた真新しい卒塔婆の立つ墓石の陰へ消えていった。
「気付いておったと思うが」
「ええ、シロは幽霊だったわね」
ミコトが溜め息を吐くと、ニャン七郎が半眼になって長子を見る。
「白蛇は、さすがに白ザルにはならんかったな」
「たわけ。何でも白色になると思うでない」
からかったニャン七郎だが、マリンが消えた方角を改めて見つめ、感慨深く呟く。
「おそらく、飼い主を待っていて二階で死んだのだろう。すでに亡くなった飼い主をな」
「そうね。マリンちゃんが亡くなったのを知らずに、ずっと待っていたのね」
「死んでも、未練が残る犬の鳴き声が夜な夜なするから、気味悪くなった誰かが封印用の札を貼った。差し詰め、そんなところだろうな」
「そうね。これでマリンちゃんもシロも成仏できる」
「そのはずじゃ」
長子とニャン七郎が、微笑むミコトを見上げた。
「ところで、部屋に戻らなくていいのかの?」
「今、それを思い出して、すっごくブルーになったところ」
「なら、俺達と一緒に、ここで夜を明かすか?」
「遠慮します」
「じゃあ、二階が開いているぞ。あそこに泊まるか?」
「あっ――」
ミコトは、開けっぱなしになっていた二階の窓に目をやって、体が固まった。
「タケコさん、よろしく」
「何でもかんでも、やらせおって」
鼻を鳴らしてブツブツ言いながらも、長子は竪樋をよじのぼっていった。
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