2.湖底に沈んだ記憶

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 少女姿の怪異が、真っ昼間から無人駅のベンチで座っている。ニャン七郎のように(ひと)(なつ)こくて協力的な怪異なのか。(たけ)()のように最初は上から目線だったが、今は馴染んでいるような怪異なのか。  話している感じでは敵意がなさそうだが、正面切って挑んでこないのもいるので、油断は出来ない。  宿のチェックインはまだ先なので、怪異を相手にする時間はあったが、用心のため嘘を言ってその場を逃れることにする。 「じゃ、急いでいるので――」 「そんな風には見えないけど」  間髪入れずに切り返す少女は、上目遣いにミコトを見て、口角を吊り上げる。この少女らしからぬ表情は、人間の姿に化けている怪異の表情そのものだ。 「何か言いたいことでもあるの?」 「言い方……。傲慢な人間は、いくら化粧をしていても、言葉に出るよねぇ」 「怒っているみたいだけど、何か人間にされたの?」 「された? 一杯あるよ」  どうやら、人間に恨みのある怪異のようだ。トートバッグに目を落とすと、ニャン七郎も(たけ)()も成り行きを見守っている様子なので、警戒は継続する。 「例えば?」 「最近は、(はら)()に追われている」  (はら)()と聞いて、マサシを連想した。I町は彼の家から遠いので、ここまで足を伸ばしている可能性は低そうだが、怪異を祓う職業に就いている人間は少ないので、ゼロではない。  少女は、トートバッグを指差した。 「まさか、お前は、その怪異を手懐けた(はら)()か?」  すっかり少女を忘れている怪異は、言葉まで素に戻っている。 「違うわ。怪異とか幽霊とかが見える体質なだけ。たまたま、この二人に会って意気投合しただけよ」 「ふーん。俺を手懐けようとしても、無駄だぞ。諦めな」 「手懐けません。じゃあ、用があるので――」 「ないだろう?」 「あります」 「嘘だ」  すると、(たけ)()が長い息を吐いて、首を伸ばした。 「お主。初対面の相手に突っかかるほど、立腹しているようじゃが、突っかかって何がしたいのじゃ? 単なる、腹いせの八つ当たりかの?」 「手懐けられた怪異が、何をぬかす?」 「手懐けられてはおらぬ。わらわは、こやつに付いていきたいだけじゃ」 「それを手懐けられたと言うのだ。分からんか?」 「話にならぬ」 「それは同じだ」 「なら、話は終わりじゃ。よいな?」 「よくない」  今度はニャン七郎が溜め息を()いた。 「はあ……。何だそりゃ?」
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