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ニャン七郎がトートバッグから両前足を出したので、飛び出すのかと思ったミコトは右手でニャン七郎の頭を押さえる。押さえられたままのニャン七郎が、少女を睨み付けた。
「お前は、単に、話し相手が欲しい。そうだよな? 困った自分の気持ちを聞いてもらいたい。だから、話を終わらせない。違うか?」
「手懐けられた怪異が、何をぬかす?」
「そうやって、話を堂々巡りにする。こんな奴は、無視無視。行くぞ」
「行くところなど、ないだろうが」
ミコトはニャン七郎が飛び出さないようにまだ頭を押さえているので、イヤイヤと頭を振って手を放させ、真上にあるミコトの顔を見上げる。
「どうやら、こういう突っかかり系の怪異らしい。嵌まると抜けられないぞ。宿へ行った方がいいな」
「そうね。それじゃ、バイバイ」
右手をヒラヒラさせたミコトが背中を向けて足を踏み出すと、進行方向に瞬間移動した少女が両手を広げて立ち塞がる。
「まだ話は終わっていない」
「あのー、どうやったら、終わるの?」
「俺の話を最後まで聞け」
少女に「俺」と言われて戸惑うミコトは、「本当の姿を見せて」と怪異に言う。すると、怪異は、首を横に振る。
「本当の姿を見せると、お前は卒倒する。だから、この姿になっている。俺の慈悲だと思え」
「はいはい、分かりました。で、俺の話って何?」
吐息混じりに質問するミコトに向かって、長子が顔を上げた。
「こやつの話をまともに聞くとは、呆れて物が言えぬ。暑さで頭がおかしくなったのかの?」
「白蛇女の言う通りだぞ」
「誰が白蛇女じゃ?」
二匹のやり取りを見て苦笑するミコトは、少女へ視線を移動させる。
「で、祓い屋に追われる以外に、聞いて欲しい話は? 怒っている話とか?」
すると、少女はミコトの方を向いたまま、左手で後ろを指差す。
「向こうに、恐ろしく大きな水溜まりがある」
「ああ、もしかして、Kダムのこと?」
「だむ?」
「周りに山があって、真ん中に湖みたいになっている所でしょう?」
「そうだ。なぜ知っている?」
「だって、そこへこれから写生に行くから」
ミコトは、この時、『もしかして』と思った。
Kダムの底に、二つの村が沈んでいる。きっと、その村、あるいは、土地にまつわる怪異なのではないかと。
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