2.湖底に沈んだ記憶

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 結論として、勾玉を取ってくることで合意しかかったが、ミコトは念のため警戒して問いかける。 「その勾玉を何に使うの?」 「そこに埋め込まれている過去の記憶を取り戻したい」 「どういうこと?」  少女は、「どこから話せば良いか」と迷った様子だったが、ややしばらく考え込んだ後、口を開いた。  少女の姿に変える前の怪異は、誰にでも見えていて、非情に醜い姿をしていた。  ただ、醜いと言うだけで、何も悪い事をしていないのに忌み嫌われ、迫害を受けた。  それに対して、抵抗したところ、怪異が暴れたという理由で、術者によって勾玉に封じ込まれた。  それは、四百年前の話。  長い年月をかけて勾玉の中から抜け出たのはいいが、過去の記憶がほとんど消えていることに気付いた。残っているのは、迫害を受けた記憶ばかり。  自分はどうしてこんな姿になったのか。  迫害以外に、どんな事があったのか。  人間の子供が遊ぶのを見ていると、きっと、自分もああだったのだろうと思えてきた。仲間がいて、一緒に遊んだりもして。  でも、思い出せない。  それで、記憶を勾玉の中に残してきたのだろうと思い、長い時間をかけて色々試しているうちに、洪水がやって来た。  (ほう)(ほう)(てい)で逃げたら、みるみる祠が勾玉と共に沈んでいく。  自分は水の中に入れないので、未だに勾玉を手にできない。  この洪水は人間の仕業だと後で知った。だから、人間を憎んだ。  でも、幸いかな、人間には姿が見えなくなっているようだ。これで迫害からは逃れて嬉しかった。  可愛い女の子を見かけたので、その格好を真似てみた。  そうやって、三十年が過ぎた。
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