2.湖底に沈んだ記憶

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「じゃあ、勾玉を取ってきたら、人間を憎まない?」 「本当に取ってきてくれるのか!? なら、約束しよう」  すると、(たけ)()が「その約束、(たが)えるでないぞ。さもなくば――」と言って、ベンチから床に降り、突然、全長5メートルの白蛇になって、少女の周りにとぐろを巻く。 「このようにして、一飲みにしてくれるわ」 「大丈夫だ! 約束は守る!」 「あのー、タケコさん。駅舎を壊さないでね」  小さな駅舎に巨大な白蛇を詰め込んだような格好になり、ミコトは苦笑する。  Kダム方面へ向かうバスは、1時間後にあった。それまでの間、近くの喫茶店で昼食を取ったミコトは、喫茶店の中でもバスの中でもスケッチブックなのかと苦情を申し立てる二匹を無視して、バスに乗る。  店の外で待っていた少女は、バスの屋根に上った。ミコトと一緒に車内へ入って席へ座ると、姿が見えないので、空席だと思って誰かが座る可能性があるからだ。  二十分後にバスはKダムの近くへ到着。  そこで下車したミコト一行は、ダムの見学者が多い事にげんなりし、(たけ)()が白蛇の姿になって、真っ昼間にドブンと水中へ飛び込むのを諦める。  ミコトは、見学者の列から離れ、スケッチブックから白猫に戻った(たけ)()に対して、少女の案内で湖の(ほとり)からおおよその祠の位置を教えてもらうように指示する。すると、一匹と一人は、いずこへと消えた。  帰りのバスの時間が来るまで、ミコトの写生の時間なので、近くの空き地から見える山などの絶景を探す。  ちょうど、良い場所が見つかったので、ミコトはトートバッグから小型の椅子を取り出して腰掛けた。 「もうそろそろ猫に戻っていいか?」 「誰もいないから、いいわよ」  スケッチブックから元に戻ったニャン七郎は、フーッと息を吐き、トートバッグからヒョイと飛び出て地面に降りた。 「潜るのは、(ひと)()が無くなる夜だな」 「そうね。そこまでは付き合えないけど」 「何? 白蛇と女怪異を置いていくのか?」 「もちろん。駅の近くに宿を取ってあるし」 「意外に、白状だな」 「と言っても、ここで夜を明かしたくないわ。悪いけど」 「それもそうか」  ミコトは、遠方の山の風景をスケッチブックに色鉛筆で描く。手を動かしながら、ニャン七郎の「白状だな」に対して、白状にならない答えを探したが、思い付かなかった。  しばらくすると、(たけ)()と少女が戻ってきた。 「どう? 分かった」 「湖のど真ん中だったから、阿呆でも分かるわな」  自信たっぷりに(たけ)()が答えた。  それから、ミコトの椅子の周りを、白猫と黒猫が戯れていたが、少女はかなり離れた草むらで体育座りをして、何やら物思いに耽っていた。
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