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ユースホステルに到着したミコトは、不安でいっぱいだった。
それは、勾玉が少女姿の怪異に無事に手渡されるかどうかではない。長子が駅まで歩いて来られるかでもない。
ホテルの中へ連れて行けと駄々をこねるニャン七郎に根負けして部屋へ運ぶのだが、何かの拍子にスケッチブックから黒猫の姿に戻らないとも限らないからだ。
「絶対に、黒猫の姿に戻っては駄目よ」
「案ずるな。決して姿を変えることはないからの」
「タケコさんの物まねしちゃって。とにかく、部屋からも出ては駄目」
「ういっす」
戯けるニャン七郎に苦笑するミコトは、夕食前にホテルを出て近所を散策した。
陽が傾き、地平線が赤く染まっていく中、商店街を抜けて、住宅街にまで足を伸ばす。
なぜだろう。
何だか、墓地を探している自分がいる。
幽霊に呼ばれているのか。
暗がりに足を向けてしまう。
怪異に導かれているのか。
長い時間をかけて、ほとんど人通りのない道を歩くと、すれ違う人がこちらを見る。それが、幽霊ではないことも怪異ではないことも分かっているが、彼らであって欲しいと願う自分がいる。
「そろそろ帰ろう」
陽が落ちる頃、ホテルからかなり離れた所まで足を伸ばしたと思い、立ち止まる。
すると、遠くで、入相の鐘の音が聞こえてきた。
「タケコさん。もう見つけたかしら?」
昨日に続いて面倒なことを長子へ押しつけたミコトは、テヘッと笑って、来た道をゆっくりと引き返した。
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