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怪異でも水に溺れることがあるかは定かではないが、とにかく、長子が水中から何時間も出てこないと言うのは異常事態だ。
蛇が潜ったという少女の言葉から、長子は白蛇になって水の中へ入ったのは確実だ。水が苦手でも見栄を張って無理して飛び込むとは思えないので、勾玉の探索は実行され、見つかったか否かに拘わらず、湖面に姿を現すはずだ。
それを少女が見逃した可能性もあるが、長子は少女を捜し出すだろうから、会っていないのはおかしい。
気を揉むミコトだが、どうして良いのか判らない。
とりあえず、声をかけた中年女性がダムの方へ歩み始め、時折後ろを向いて、迷子になりそうな若い女性の行き先を確認しているので、今は、見学コースを行く観光客を演じるしかない。
少女は、ミコトの背中に「どうするのだ?」としつこく問いかけるが、まずは見学者を装うしかないので、前を向いたまま「任せて」と小声で言葉を返す。
ところが、前を歩く三人の中年女性の一人がこちらを向き、指を差して何かを言う。すると、二人が次々とこちらを振り返って立ち止まった。ミコトが『何かしら?』と思っていると、
「あなた。動物を連れて入れないわよ」
「ケースに入れても、無理よ」
言われてピンときたミコトは、トートバッグへ目を落とすと、いつの間にか一冊のスケッチブックが一匹の黒猫に変わっていて、頭を出して女性達の方を向いていた。
「ニャ七!」
「ニャー」
これでは、ダムの見学コースに入れない。
だが、もしかして、ニャン七郎が機転を利かして、見学者の列にミコトを参加させないようにしたのか。
そこまで考えるニャン七郎とは思えないが、とにかく、ミコトは「すみません」と頭を下げてバス停へ引き返した。
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