2.湖底に沈んだ記憶

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 ところが、5分待っても、10分待っても、少女もニャン七郎も姿を見せない。  幸い、一人と一匹が捜索に出かけたときに、雲が広がって太陽を隠し、風も吹いてきたので、ちょっとした木陰に入ることで熱中症は避けられそうだった。  風になびく雑草と腕時計との間を視線が何度も行き来する。  不安が募って、最悪の結末の場面が、心の中で膨らんでいく。  そうして、15分が経過したとき、少女と濡れたニャン七郎が雑草を掻き分けて現れた。  安堵して木陰から飛び出したミコトは、(たけ)()の姿がいつまでも現れないので、足が止まった。 「タケコさんは?」 「ふごふごふがふがふがふぎふぎ」 「はい?」  口に物が詰まったような喋り方をしたニャン七郎が、口から何かを吐いた。短い草のクッションの上に落下したのは、長さが2センチほどの藍色の勾玉だった。 「この中らしい」 「勾玉に取り込まれたの!?」  思わず大声を上げたミコトは、辺りに人がいないことを確認する。 「なぜ、中だと分かったの?」 「中から白蛇の声がするのだ」  ミコトが急いで勾玉を拾い上げ、右耳に近づけると、 『わらわは、この中じゃ……』  微かに(たけ)()の声が聞こえてくるので、ミコトは安堵した。 「大丈夫!?」 『大丈夫――』 「良かったぁ!」 『なわけがないだろうが』  これは急がないといけない。  だが、いかにして、勾玉の中から(たけ)()を救出すべきか。二人と一匹が草の上に置いた勾玉の周りで額を寄せて考えていると、急にミコトがハッとして、少女の方へ顔を向けた。 「ねえ。あなた、どうやって、ここから出たの?」
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