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少女は「そうだ」と言って手を叩き、勾玉に向かって語りかける。
「今は真っ暗だと思うが、体の向きを変えていくと、どこかで、ほんのわずかだが光の点が見えるはず。そこに向かって、とにかく這っていくと出られる」
『光の点? そんな物は……、見当たらぬ……、ん? あれか?』
「見えたのか?」
『点と言うより、縦長のひび割れみたいじゃが?』
「あっ、もしかしたら、俺が出た時に、勾玉にひびが入ったのかも知れない」
少女は勾玉を拾い上げて、色々な角度から眺めてみたが、「表面が汚すぎてよくわからんが、とにかく、そのひび割れから出られるはず」と言って、勾玉を草の上に置いた。
『とにかく……出れば……よいのじゃな……。って、これは……難儀じゃ……』
さすがの長子でも苦しそうな声を上げるので、ミコトが握る両方の拳に力が入る。
『ううむ……ううむ……』
しかし、1分経っても2分経っても、勾玉は微動だにせず、ついには長子の力む声が途絶えた。
「頑張れ! タケコさん!」
思わず、ミコトが声を上げる。もう、周りに誰が見ていようと構わない。
「頑張れ! ファイト!」
と、その時、ピシッと音がして勾玉に亀裂が入り、微小の破片が飛び散ったかと思うと、ピシピシピシッと割れる音が連続して無数の破片が飛び散り、中から白煙が噴き出した。煙は、空へ向かって伸びていき、瞬く間に鎌首を持ち上げる全長5メートルの白蛇に姿を変える。ミコトと少女は腰を抜かして尻餅をつき、ニャン七郎は口をあんぐりとさせて上を向いた。
「ふう。ようやく出られたわい」
上から長子の声が聞こえたかと思うと、白蛇は一度白煙に戻り、それから白猫の姿へと戻った。
この長子の脱出と並行して、粉々になった勾玉から光の粒を伴う白煙が幾筋も立ち上り、少女の頭の中へと吸い込まれていった。
すると、少女は心ここに在らずといった様子で、ヨロヨロと立ち上がる。そして、目に一杯涙を浮かべた。
「悪かったの。勾玉を壊してしもうた」
謝罪する長子は、手で顔を覆って嗚咽する少女に、さらにかける言葉を失う。
「……やむを得なかったのじゃ。許せ」
長子が少女に近づいて、見上げながら優しく言葉をかけると、少女は手で顔を覆ったまま首を横に振った。
「泣いているのは、思い出したからだ。何もかも、思い出したのだ」
「そうか! 記憶を取り戻したのか!?」
少女は無言で頷いた。
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