2.湖底に沈んだ記憶

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 少女は「そうだ」と言って手を叩き、勾玉に向かって語りかける。 「今は真っ暗だと思うが、体の向きを変えていくと、どこかで、ほんのわずかだが光の点が見えるはず。そこに向かって、とにかく這っていくと出られる」 『光の点? そんな物は……、見当たらぬ……、ん? あれか?』 「見えたのか?」 『点と言うより、縦長のひび割れみたいじゃが?』 「あっ、もしかしたら、俺が出た時に、勾玉にひびが入ったのかも知れない」  少女は勾玉を拾い上げて、色々な角度から眺めてみたが、「表面が汚すぎてよくわからんが、とにかく、そのひび割れから出られるはず」と言って、勾玉を草の上に置いた。 『とにかく……出れば……よいのじゃな……。って、これは……難儀じゃ……』  さすがの(たけ)()でも苦しそうな声を上げるので、ミコトが握る両方の拳に力が入る。 『ううむ……ううむ……』  しかし、1分経っても2分経っても、勾玉は微動だにせず、ついには(たけ)()の力む声が途絶えた。 「頑張れ! タケコさん!」  思わず、ミコトが声を上げる。もう、周りに誰が見ていようと構わない。 「頑張れ! ファイト!」  と、その時、ピシッと音がして勾玉に亀裂が入り、微小の破片が飛び散ったかと思うと、ピシピシピシッと割れる音が連続して無数の破片が飛び散り、中から白煙が噴き出した。煙は、空へ向かって伸びていき、瞬く間に鎌首を持ち上げる全長5メートルの白蛇に姿を変える。ミコトと少女は腰を抜かして尻餅をつき、ニャン七郎は口をあんぐりとさせて上を向いた。 「ふう。ようやく出られたわい」  上から(たけ)()の声が聞こえたかと思うと、白蛇は一度白煙に戻り、それから白猫の姿へと戻った。  この(たけ)()の脱出と並行して、粉々になった勾玉から光の粒を伴う白煙が幾筋も立ち上り、少女の頭の中へと吸い込まれていった。  すると、少女は心ここに在らずといった様子で、ヨロヨロと立ち上がる。そして、目に一杯涙を浮かべた。 「悪かったの。勾玉を壊してしもうた」  謝罪する(たけ)()は、手で顔を覆って()(えつ)する少女に、さらにかける言葉を失う。 「……やむを得なかったのじゃ。許せ」  (たけ)()が少女に近づいて、見上げながら優しく言葉をかけると、少女は手で顔を覆ったまま首を横に振った。 「泣いているのは、思い出したからだ。何もかも、思い出したのだ」 「そうか! 記憶を取り戻したのか!?」  少女は無言で頷いた。
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