1.いなくなったペット

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「タケコさんでもニャ(しち)でもいいけど、この家の中に入れる?」  ミコトの問いかけに、白猫と黒猫は顔を見合わせる。何やら目で会話をしてから、二匹が同時にゆっくりとミコトを見上げた。 「犬相手は勘弁だ。この白猫蛇が何とかするだろう」  さっきと話が違うと言いたげに、(たけ)()がニャン七郎の方へ顔を向けた。 「誰が白猫蛇じゃ。それより、わらわがここで白蛇の姿に戻って良いのかの?」 「そのままの格好でいいだろうが」 「犬相手に猫では、喧嘩になろう」 「ちょっと待って」  ミコトが会話に割り込む。彼女は、(たけ)()が白煙に包まれてムクムクと膨れ上がり、全長が5メートルを優に超える白い大蛇になるところを目撃しているので、今ここで元に戻っては騒ぎが起きかねないからだ。第一、そんな体で窓を割って入ろうとでもしているのだろうか。 「ねえ。今、シロの声が聞こえるの?」  二匹から視線を移したミコトは、しゃがんで少女の目線と合わせ、問いかけた。 「うん」 「でも、姿が見えない?」 「うん」  頷く少女から、ミコトは二匹へ視線を戻す。 「ねえ、どっちか、あの窓まで行って、中の声を確認してくれる?」  またも顔を見合わせる白猫と黒猫。目の会話が長いのは、どっちも行きたくないのだろうか。そんな気を揉むミコトに顔を向けたのは、(たけ)()の方だった。 「この腰抜けはどうしても行かぬようじゃから、わらわが行くが、あの高さには飛び移れぬ。じゃから、元の姿に戻るしかないの」 「放り投げてもらえ」 「たわけ」  (たけ)()の右前足が素速く顔目がけて伸びるので、ニャン七郎は後方へ跳んで回避する。頼りにならない二匹に肩を(すく)めるミコトは、立ち上がって耳を澄ますが、犬の声は鼓膜に届かない。 「ねえ。本当に、シロの声が聞こえるの?」  少女を見下ろすミコトが首を傾げると、嘘をついていると思われたのが悲しいのか、少女が泣きそうな顔になる。 「あの窓から呼んだら、来るんじゃない?」  そう言ってから、なんて冷たい自分、と猛省する。探して欲しいという相手に、声をかけたら窓の方へやって来るだろうから、そうやって再会しろと、自ら何も手を下さない提案しているのだ。  無理難題を吹っ掛ける相手には、その手であしらうのもありだが。いや、今のこの状況では、無理難題に近いか。  逡巡するミコトに、少女は縋るような目で「あいたいの」とポツリと言う。  単に、窓越しで対面するのではなく、抱きしめたいのだろう。  そう思うと、涙を誘われる。  少女の未練を何とか解決したいミコトは、少女の左肩へ伸ばそうとした右腕を降ろした。 「ごめんなさい。あの高さでは、お姉ちゃん達には無理なの。――でも、ちょっと考えさせて。もしかして、他の方法で、出来るかも知れないから」  幽霊を安心させる言葉が、ノープランなのに口を突いて出る。言った後から、ミコトは眉をハの字にして頭を掻いた。 「どうするの?」  口から出任せを言っているのかと確かめられた。右の拳を顎に当てて目を上方向に動かしたミコトは、「えーと」を繰り返し、 「考えさせて」  重複する答えに、少女はガックリと首を折った。
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