1.いなくなったペット

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 正直言って、いくら空き家でも、他人の家に侵入するのはリスクが大きい。頼りになるのは、この場にいる(たけ)()とニャン七郎のみ。だが、方法が思いつかない。  とりあえず、目の前で意気消沈している少女をなだめる方法を考える。それには、少しでも探してあげる意志を行動で見せないと行けない。ミコトは、二匹に出来ることを考えていると、夕方の出来事が頭の中に浮かんできた。 「ねえ、タケコさん。鳩に姿を変えられるんじゃない?」  そう言いながら(たけ)()の方を見下ろすと、(たけ)()は目を見開いた。 「無論出来るが、何故それを訊く?」 「夕方、ヨーコちゃんを家に送っていったら。マサシさんが現れて逃げたときに、鳩だったなぁと思い出して」 「鳩になって、何をさせたいのかの?」 「二階の様子を調べて欲しいの」  その子にやらせればいいのにとぶつくさ言いながらも、(たけ)()は白い鳩に姿を変えて羽ばたいた。  月明かりに照らされる鳩は、闇に白い筋を描いて二階の窓を目指し、体を横向きにして窓枠の下の隙間に乗ろうとするも、鳥に慣れていないので上手くいかない。  見ている方が気の毒になるほど羽をばたつかせてトライするも、諦めたらしく、羽ばたきながら宙に停止し、窓の方へ首を伸ばす。  (たけ)()の調査は1分間程度だったが、ミコトにはそれが何倍にも長く感じ、グズグズしていると、この現場を人に見られるのではないかと気が気でなかった。  だが、文句を口にしながらも協力してくれる怪異に対して、今すぐ降りてきてとは、虫がいい話だ。 「ある程度分かったから、安心せい」  そう言いながら、虫の()が響く中を大きな羽の音を立てて(たけ)()が降りてきたときには、収穫があったようでホッとする。 「家の中はがらんどう。なのに、確かに、犬の声がする。不思議よの」  安心どころか、かえって迷宮に入った気分だ。  密室に、姿を見せない犬がいるとは、(にわか)に信じがたい。なので、ミコトは一つの仮説を立てた。 「押し入れとか、なかった?」 「おしいれとは、何のことじゃ?」  人間の建築に(うと)いらしい(たけ)()は、鳩の姿で小首を傾げる。仕方ないので、少女に聞いてみると「ある」という。 「そう言えば、お名前を聞いていなかったわね。私はミコト。あなたは?」 「マリン」 「マリンちゃん。シロは、押し入れの中に入ることって、あった?」 「ない」  仮説は崩れた。他に何が考えられるか?  長考するミコトは、これしかないと考えを固め、今度は、ニャン七郎にからかわれている(たけ)()の方へ向いた。 「お楽しみのところ、悪いけど――」 「からかう相手に楽しんではおらぬが、何じゃ?」 「もしかして、結界が張られていなかった?」 「ああ、言い忘れたわい。結界があったの」  眉を集めるミコトは、鼻にまで皺を作って大きめの声を上げる。ただし、囁くような細い声でだが。 「それ、早く言ってよー!」
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