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正直言って、いくら空き家でも、他人の家に侵入するのはリスクが大きい。頼りになるのは、この場にいる長子とニャン七郎のみ。だが、方法が思いつかない。
とりあえず、目の前で意気消沈している少女をなだめる方法を考える。それには、少しでも探してあげる意志を行動で見せないと行けない。ミコトは、二匹に出来ることを考えていると、夕方の出来事が頭の中に浮かんできた。
「ねえ、タケコさん。鳩に姿を変えられるんじゃない?」
そう言いながら長子の方を見下ろすと、長子は目を見開いた。
「無論出来るが、何故それを訊く?」
「夕方、ヨーコちゃんを家に送っていったら。マサシさんが現れて逃げたときに、鳩だったなぁと思い出して」
「鳩になって、何をさせたいのかの?」
「二階の様子を調べて欲しいの」
その子にやらせればいいのにとぶつくさ言いながらも、長子は白い鳩に姿を変えて羽ばたいた。
月明かりに照らされる鳩は、闇に白い筋を描いて二階の窓を目指し、体を横向きにして窓枠の下の隙間に乗ろうとするも、鳥に慣れていないので上手くいかない。
見ている方が気の毒になるほど羽をばたつかせてトライするも、諦めたらしく、羽ばたきながら宙に停止し、窓の方へ首を伸ばす。
長子の調査は1分間程度だったが、ミコトにはそれが何倍にも長く感じ、グズグズしていると、この現場を人に見られるのではないかと気が気でなかった。
だが、文句を口にしながらも協力してくれる怪異に対して、今すぐ降りてきてとは、虫がいい話だ。
「ある程度分かったから、安心せい」
そう言いながら、虫の音が響く中を大きな羽の音を立てて長子が降りてきたときには、収穫があったようでホッとする。
「家の中はがらんどう。なのに、確かに、犬の声がする。不思議よの」
安心どころか、かえって迷宮に入った気分だ。
密室に、姿を見せない犬がいるとは、俄に信じがたい。なので、ミコトは一つの仮説を立てた。
「押し入れとか、なかった?」
「おしいれとは、何のことじゃ?」
人間の建築に疎いらしい長子は、鳩の姿で小首を傾げる。仕方ないので、少女に聞いてみると「ある」という。
「そう言えば、お名前を聞いていなかったわね。私はミコト。あなたは?」
「マリン」
「マリンちゃん。シロは、押し入れの中に入ることって、あった?」
「ない」
仮説は崩れた。他に何が考えられるか?
長考するミコトは、これしかないと考えを固め、今度は、ニャン七郎にからかわれている長子の方へ向いた。
「お楽しみのところ、悪いけど――」
「からかう相手に楽しんではおらぬが、何じゃ?」
「もしかして、結界が張られていなかった?」
「ああ、言い忘れたわい。結界があったの」
眉を集めるミコトは、鼻にまで皺を作って大きめの声を上げる。ただし、囁くような細い声でだが。
「それ、早く言ってよー!」
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