1.いなくなったペット

8/11
前へ
/28ページ
次へ
 (たけ)()の証言で、二階の窓からシロの姿が見えない理由は、結界が張られているからだと判明した。  ――誰が結界を、張ったのだろう。  先日のF町で見かけた母子の幽霊のケースでは、家の引き戸と雨戸に呪文が書かれた封印用の札を甥の太一が3枚貼ったことで、結界が張られてしまった。  きっと、この家も同じような札が貼られているに違いない。誰が貼ったかは不明だが、マリンの両親か両親に頼まれた人だろう。  でも、(たけ)()は窓の外から見て中ががらんどうだと言っていた。だとすると、窓に貼られている可能性はない。もし窓に貼られていたら、部屋の中が見えないはずだ。  腕組みをしながら何故だろうと考えるミコトは、考えが堂々巡りとなって、結論が出ない。そんな彼女が、何気にマリンの方を向くと、じっとこちらを見ていてムスッとした顔をしている。マリンから目をそらして俯くと、鳩のままの(たけ)()とニャン七郎がこちらを見上げている。  こうも幽霊と怪異に見つめられると、やりにくくて困る。気が散って考えがまとまらないのだ。そこでミコトは、視線から逃れるため、二階を見上げて無機質な窓を見つめた。 『あの部屋のどこにお札を貼っているのだろう? どこに貼ると、部屋の中のシロが見えなくなるのだろう?』  謎が解けずに苛立つミコトは、思考のループを断ち切るため、(かぶり)を振って考えをリセットする。それから、マリンと(たけ)()を順に見て、二人の証言を思い返した。  噛みしめるように彼女達の証言を振り返ると、冷静になったからか、ふと疑問が湧いてきた。 『この二人が言っていることは、実は、断片的なのではないか? 早く解決したい私は、それらを繋げるために、憶測で隙間を埋めているのではないだろうか? そうやって作り上げて行く推論は、事実からどんどん離れていって、最後は破綻する――』  今の今まで、ミコトの頭の中では、部屋の真ん中にシロがうずくまって吠えている絵が描かれていた。それが結界のせいで見えていない。――そう考えていた。  だが、マリンと(たけ)()の断片的情報からミコトが描いた部屋の中の想像図は、事実に近づいているのだろうか?  もし、明後日の方向を向いているのなら、何故シロが見えないのだろうと考えても無駄である。  断片的な情報を埋めるには、二人のさらなる証言を手に入れるしかない。そこでミコトは、両膝に両手を当てて、マリンに顔を近づけた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加