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長子の証言で、二階の窓からシロの姿が見えない理由は、結界が張られているからだと判明した。
――誰が結界を、張ったのだろう。
先日のF町で見かけた母子の幽霊のケースでは、家の引き戸と雨戸に呪文が書かれた封印用の札を甥の太一が3枚貼ったことで、結界が張られてしまった。
きっと、この家も同じような札が貼られているに違いない。誰が貼ったかは不明だが、マリンの両親か両親に頼まれた人だろう。
でも、長子は窓の外から見て中ががらんどうだと言っていた。だとすると、窓に貼られている可能性はない。もし窓に貼られていたら、部屋の中が見えないはずだ。
腕組みをしながら何故だろうと考えるミコトは、考えが堂々巡りとなって、結論が出ない。そんな彼女が、何気にマリンの方を向くと、じっとこちらを見ていてムスッとした顔をしている。マリンから目をそらして俯くと、鳩のままの長子とニャン七郎がこちらを見上げている。
こうも幽霊と怪異に見つめられると、やりにくくて困る。気が散って考えがまとまらないのだ。そこでミコトは、視線から逃れるため、二階を見上げて無機質な窓を見つめた。
『あの部屋のどこにお札を貼っているのだろう? どこに貼ると、部屋の中のシロが見えなくなるのだろう?』
謎が解けずに苛立つミコトは、思考のループを断ち切るため、頭を振って考えをリセットする。それから、マリンと長子を順に見て、二人の証言を思い返した。
噛みしめるように彼女達の証言を振り返ると、冷静になったからか、ふと疑問が湧いてきた。
『この二人が言っていることは、実は、断片的なのではないか? 早く解決したい私は、それらを繋げるために、憶測で隙間を埋めているのではないだろうか? そうやって作り上げて行く推論は、事実からどんどん離れていって、最後は破綻する――』
今の今まで、ミコトの頭の中では、部屋の真ん中にシロがうずくまって吠えている絵が描かれていた。それが結界のせいで見えていない。――そう考えていた。
だが、マリンと長子の断片的情報からミコトが描いた部屋の中の想像図は、事実に近づいているのだろうか?
もし、明後日の方向を向いているのなら、何故シロが見えないのだろうと考えても無駄である。
断片的な情報を埋めるには、二人のさらなる証言を手に入れるしかない。そこでミコトは、両膝に両手を当てて、マリンに顔を近づけた。
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