1.いなくなったペット

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「ねえ、マリンちゃん。シロの声って、どこから聞こえるの? 部屋の奥? それとも部屋の手前――窓のそば?」  目を右に左に動かして考えるマリンは、ミコトの腹の辺りを見つめる位置で目の動きを止め、少し俯いて答える。 「まどのそば」  ――やっぱり。  シロは窓の近くにいる。  体長が30センチメートル程度の子犬が壁際にいれば、窓越しに外から覗いても見えないのは(うなず)ける。  後は、結界の謎だ。腰を上げたミコトは、腕組みをして(たけ)()を見下ろす。 「タケコさん。結界って、もしかして窓側ではなく、奥の方になかった?」  正に、鳩が豆鉄砲を食ったような(たけ)()は、「ほう」と驚きの声を上げる。 「まるで見ていたかのようじゃな」 「感心している場合じゃありません。奥の方にあったのですね?」 「そうじゃが、何故分かった?」 「結界があるのに、部屋の中が見えていて、がらんどうって言ったから。そういう状況になるのは、きっと、部屋の奥にある扉の外にお札を貼っているからよ」  これで、謎は解けた。  後は、あの窓を開けられれば、マリンが部屋の中に入って、シロと対面できる――はず。 「あそこの鍵が開いていれば……」  恨めしそうに窓を見上げるミコトは、鍵が開いていればという願望が、段々と、開いているという事実にすり替わっていった。 「ねえ、タケコさん。あそこの鍵って、もしかして開いているんじゃない?」 「わらわは、見ても分からぬ」 「鳩の格好で、あそこまで飛んで、お猿さんに変身して窓開けるのって、出来る?」 「曲芸まがいの無茶振りも甚だしいの」 「お願い」  両手を合わせて拝むミコトは、頭を下げ、両手を合わせたまま頭上に掲げた。
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