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「ねえ、マリンちゃん。シロの声って、どこから聞こえるの? 部屋の奥? それとも部屋の手前――窓のそば?」
目を右に左に動かして考えるマリンは、ミコトの腹の辺りを見つめる位置で目の動きを止め、少し俯いて答える。
「まどのそば」
――やっぱり。
シロは窓の近くにいる。
体長が30センチメートル程度の子犬が壁際にいれば、窓越しに外から覗いても見えないのは肯ける。
後は、結界の謎だ。腰を上げたミコトは、腕組みをして長子を見下ろす。
「タケコさん。結界って、もしかして窓側ではなく、奥の方になかった?」
正に、鳩が豆鉄砲を食ったような長子は、「ほう」と驚きの声を上げる。
「まるで見ていたかのようじゃな」
「感心している場合じゃありません。奥の方にあったのですね?」
「そうじゃが、何故分かった?」
「結界があるのに、部屋の中が見えていて、がらんどうって言ったから。そういう状況になるのは、きっと、部屋の奥にある扉の外にお札を貼っているからよ」
これで、謎は解けた。
後は、あの窓を開けられれば、マリンが部屋の中に入って、シロと対面できる――はず。
「あそこの鍵が開いていれば……」
恨めしそうに窓を見上げるミコトは、鍵が開いていればという願望が、段々と、開いているという事実にすり替わっていった。
「ねえ、タケコさん。あそこの鍵って、もしかして開いているんじゃない?」
「わらわは、見ても分からぬ」
「鳩の格好で、あそこまで飛んで、お猿さんに変身して窓開けるのって、出来る?」
「曲芸まがいの無茶振りも甚だしいの」
「お願い」
両手を合わせて拝むミコトは、頭を下げ、両手を合わせたまま頭上に掲げた。
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