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「あの、あなたは…?」
口を開いて訊ねると、男はジャケットの内ポケットから紙切れを差し出す。
渡された紙は名刺だった。名前の部分には靄がかかって読めないが、肩書きには見慣れぬ文字が並んでいた。
〈もう少し保険 外交員〉
「もう少し保険?」
『ええ、左様にございます』
仮面の不審者改め怪しい外交員は、手に提げたビジネスバッグから家電のトリセツほどの冊子を取り出した。パンフレットのようだ。
『お客様は〈もう少しだけこうだったら〉と、お思いになったことはございませんか?』
ドキリとしたが、自分の夢の中なのだからタイミングなんか合っていて当然だ。寧ろ、そんなことを思いながら寝落ちたからこそ、こんな夢を見た始末なのだ。
冊子を受け取ると、外交員は話を続けた。
『当社では、そのような小さな〈スキルの差〉を補う保険をご用意しております』
ーーー差を補う?
首を傾げる間も無く、手に持った冊子のページが独りでに捲れる。思わず手を引っ込めると、冊子は最初の見開きで止まったまま宙に浮いた。夢ってのは何でもアリだな。
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