7

7/12
前へ
/111ページ
次へ
「何にする?」 「俺、オムライス」 「オムライス……ここの美味しいの?」 「割と人気だよ。俺はここで飯食う時はいつもオムライス」 「へえ。オムライスいいよねえ。うーん。でもここ、パスタメニューが多いね」 「メインはパスタだからな」  メニューを凝視しながら悩むこと三分。 「ナスとトマトのボロネーゼにしよ」  イオが席を立ってオーダーに行ってくれる。  戻ってきたイオがシフォンを食べてしまうのを待って、水を向けた。 「何で急に会おうなんて思ったの?」  春海に問われてから考えたものの、まったく思い浮かばず、結局本人に聞くのが一番手っ取り早いと単刀直入に訊ねる。 「何でって……契約結婚だとかいうから」  ボソボソと声を低くして言うのに、首を傾げた。 「それだけ?」 「それだけって。長年の友達がそんな訳わかんねえこと言い出したら、そりゃ焦るだろ」  目を険しくして言われ、「すみません」としか言い様がない。 「でも、本当にそんな変な契約じゃないから。お互いに抱えてた問題を解決するのにちょうど良かったってこと」 「結婚しろって言われること?」 「そう」 「それって、そんなに大変なこと?」  怪訝そうな顔で言われて、言葉に詰まる。  まだ若いイオには想像できないだろう。  何より、彼は新しい感覚を持っているだろうし、古い固定観念や体裁など考えが及ばないかもしれない。 「大人になるといろいろあるの。体裁とかね」 「テイサイ」 「世間体とか」 「セケン……人にどう見られるかってこと?」 「そう。今の時代にも考えの古い人っていてね、それが親だと面倒になるの」 「ふうん……」  まだどこか釈然としない顔でイオが頷いたところで、注文したものが来た。  ランチセットには小さなサラダとスープがつく。  しゃくしゃくとサラダを咀嚼しながら、イオがちらちらと芽衣を気にする視線を投げた。 「あのさ」  やっと口を開いたイオに目を向けて、フォークで巻き取ったパスタを口に入れる。 「その、社長ってどんな人?」  眉を寄せて妙に真剣な顔で訊いてくるのに、パスタを咀嚼しながら考えた。  どんな人。 「仕事ができる人」 「……そういうことじゃなくてさ……」 「優しいよ。うん……優しいっていうか……尊重してくれる」 「尊重?」 「そう。私の意見も聞いて、そのうえでいろいろ一緒に決めるし、とにかく対等でいようとしてくれる。プライベートではね。仕事は、向こうは社長で私は秘書だから」  どうにも納得していなさそうな顔のイオに、芽衣は、はあ、とあからさまな溜息を洩らした。 「何なの。何をどう知りたいの」 「自分でも良くわかんないけど、なんかモヤモヤするんだよ」  唇を尖らせて言うイオを見返して、芽衣も途方に暮れた顔になる。  ちら、とそんな芽衣を見たイオは、弁解するように言った。 「お互い好きで結婚するっていうなら、俺も普通に『おめでとう』って言えばいいだけの話じゃん。でも契約結婚って聞くとさ……なんか、大丈夫なのかなって」 「何が」 「その、契約を盾に無理難題を要求されるとかさ」 「むしろその無理難題を、二人で解決していこうっていう主旨の契約なんだけど」  眉を寄せて返すと、イオはますます唇を尖らせる。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117人が本棚に入れています
本棚に追加