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 ダイニングテーブルに無造作に置かれたそれを、春海は興味津々の態で覗き込む。 「……うま、かっちゃん……?めんべい……?」  パッケージに印刷された名称を口にして、首を傾げる。  そこへ、風呂上がりの芽衣が乾かした髪を後ろで一つに纏めながら入ってきた。 「あ、それ。母が私に買ってきてくれたんです。今度食べましょうね」 「八女のお土産?」 「八女っていうか、九州のですね。九州で袋ラーメンといえば、マルタイかうまかっちゃんなんです」 「マルタイは見たことある。棒ラーメンの」 「一番有名なのは棒ラーメンですね」  春海は頷きながら袋ラーメンを一つ手に取って矯めつ眇めつしている。 「やっぱり豚骨なんだ」 「私はある程度大きくなるまで、ラーメンは豚骨しかないと思ってました」 「へえ。いつ頃他の味があるって知ったの」 「中学生の時ですかね。友達が醤油ラーメンのカップ麺を食べてて。あれは衝撃でした」 「衝撃」  面白そうに問い返す春海に、大きく頷く。 「醤油スープって何?って。お買い物について行っても、あんまりラーメンのコーナーって見たことなくて。改めてちゃんと売り場を見たら、醤油のほかに味噌味とか塩味とか置いてあってびっくりしました」  言いながら、袋ラーメンを二つ取り上げた。 「春海さん、お夕飯どうします?何ならこれ食べてみますか」 「え、君のだろ。いいの」 「全然、構いません」 「じゃあ、お言葉に甘えて」  嬉しそうにはにかむ春海に、芽衣もつられて笑顔になる。  キッチンで水を入れた鍋を二つ火にかけ、沸くのを待ちながら考える。 「ラーメンだけっていうのも……あ、そうだ」  以前、母が送ってくれた辛子高菜の真空パックがあったはず。  思い出して棚を探す。 「あれ、どこに入れたっけ……」  あちこち探して、やっと見つけたそれの封を切って、器に移しているうちに湯が沸いた。  麺を入れて少しずつほぐしながら柔らかくなるのを待ち、粉末スープを入れて最後に卵を落とす。  白身がふわわ、と白く固まって行くのを後目に丼を二つ並べ、卵に火が通ってしまう前に火を止めた。  トレイに二つの丼と辛子高菜の器を乗せて、ダイニングテーブルに置いてから、リビングのソファでノートパソコンを開いていた春海に声をかけた。 「春海さん、できましたよ」  ぱっ、と顔を上げた春海は、すぐに立って大股でやってきた。  向かい合わせに座って、手を合わせる。 「いただきます」  同時に口にして、箸を取り上げたところで、春海が小鉢の存在に気づいた。 「これは?」 「辛子高菜です。豚骨ラーメンに合うんですよ」 「へえ」 「味変にどうぞ」  春海は頷いてまずはレンゲでスープを啜った。 「ん。そこまで濃くないね。食べやすい」 「これは定番のですけど、最近は細麵で濃い味のも出てるみたいです」  いくらか食べ進んだところで、辛子高菜を投入。  麺と絡めて啜った春海が目を大きくした。 「これ全然違う。旨い。俺はこっちの方が好きかも」 「合うでしょう。福岡のラーメン屋さんだと辛子高菜や紅ショウガはテーブル常備 のところもあります」 「紅ショウガ」 「今日は残念ながら買い置きがないんですけど、これもまた美味しいんですよ」 「へえ。今度試してみよう。紅ショウガか」  うんうん、と頷きながら、春海はすっかり完食。  芽衣が食べ終わるのを待ってから、一緒に「ごちそうさま」を言って笑った。
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