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ぽかん、と芽衣を見ていた千寿留が、思い出したように目を瞬かせて口を開く。
「子供が、産めないって、え?どういうことなの?」
口の端を無理やり引き上げて、中途半端な笑みを浮かべた母に問われ、芽衣は冷静な顔を告げた。
「私、実は子宮内膜症で……三年前に子宮を摘出してるの」
「あなた、そんなこと一言も言わなかったじゃない」
涙を滲ませて叱責するような口調で千寿留が言うのに、芽衣は困ったように眉を下げた。
「言ったら悲しませると思ったのよ。お母さん、いつも二言目には結婚はまだ?だったから。結婚の次は孫って言い出すだろうな、と思って」
「そんなの……」
言葉を失って俯く千寿留に申し訳ないと思いながらも、芽衣は表情には出さないように堪えた。
「春海さんは、私が子供を産めないと知っても、まったく態度を変えなかった。それでもいいと言ってくれたのよ」
芽衣の言葉に、千寿留の目が春海に向けられる。
それはさっきまでの自身の発言の気まずさもあるのか、窺うようなものだったが、少しその奥にある侮蔑のようなものが薄れているように見えた。
「……本当にいいんですか?久世家からしたら、跡取りを産めない嫁なんて」
「そんな結婚は認めないと言い出すでしょうね。でも、もう入籍もしてますから。養母は激怒するでしょうけどね」
それまで黙っていた竜太郎が口を開いた。
「そうなると、芽衣にその矛先が向かうんじゃないのかね」
「芽衣さんには一切手出しさせません」
毅然とした表情ではっきりと言った春海を、千寿留と竜太郎がじっと見つめる。
「春海さん。あなたは本当にいいの?跡継ぎはともかく、もう子供が持てないということなのよ」
窺うような千寿留の声音に、春海は首を傾げた。
「私は、これからの人生を芽衣さんと歩いていきたいと思っています。もし子供が欲しいなら、養子を迎えるという手段もあります」
「自分の血を継ぐ子は望めないということよ。いいの?」
言い募る千寿留を見返す。
「血を継いでいることがそんなに重要ですか」
その問いに、千寿留は目を瞬かせた。
「血を継ぐとか、絶やさないとか、それはそんなに重要なことなんでしょうか」
「重要というか、その方が自然でしょう。養子なんてそんな、どこの子かも分からないような」
「母さん、もうやめなさい」
窘めるような竜太郎の声に、千寿留がはっ、と口を噤む。
たった今、春海が妾腹の子であると聞いたばかりだった、と思い至ったのか、千寿留は決まりが悪そうに俯いた。
「あ、あの……自分の子ってやっぱり特別というか……」
独り言のように弁解する千寿留を、春海は緩く首を振って制した。
「いいえ。それが普通の考え方だと思います」
千寿留は気が抜けたように息を吐く。それから少し眉尻を下げて微笑んだ。
「それでも娘を選んでくれるというんですね、春海さんは」
「はい。芽衣さんがいいんです」
そう言って、春海は芽衣に目を向け、微笑む。
「ーーーーー ありがとうございます。芽衣をよろしくお願いします」
目尻に涙を滲ませて、千寿留は春海に頭を下げた。
春海はほっとしたように頬を緩ませて、芽衣に目を向ける。
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