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やがて、山を下り終え麓の町にまで辿り着いた。時刻は深夜1時。車通りや人通りは、ほとんどない。それでも、街灯やコンビニの明かりくらいは、少しずつ目につくようになっていた。
そこでやっと、俺はバックミラーを覗き込む事が出来た。
何も映ってはいない。
俺はそれに胸を撫でおろすと共に、どっと疲れが襲い掛かってきた。
「少し、休憩してもいいか?」
それに彼女は小さく、はい……と呟く。
そんな彼女の許可を得て、俺は次に通りかかったコンビニへと入り込む。
「中に行って来るけど、何か欲しいものはある?」
「……いえ、お構いなく」
彼女は依然として怯えた様子で、そう答えてきた。
無理もない。俺もまだ、先程の光景が思い浮かび、震えが止まらないのだから。
ただ、コンビニに入ると、少しばかり安心感を覚えた。
始めて訪れるコンビニだが、造りは見知ったコンビニとあまり変わらない。また、退屈そうに商品を並べる店員も同じ。その光景が俺を日常感へと戻してくれる様だった。
俺は、適当に飲み物と搬入されたばかりのおにぎりをいくつか手に取る。
そして、再び車内へと戻った。
「とりあえず、はいこれ」
俺はそう言って、お茶とおにぎりを彼女に差し出した。
すると彼女は申し訳なさそうに
「あの……お気遣いなく」と遠慮しだす。
それに対し、俺は
「たぶん、何も口にしていないんだろ? 遠慮すんなよ」と無理やり勧めた。
しかし、それでも彼女は遠慮してくる。
「確かに、夕食も摂らずに抜け出してきました……。けど、喉も乾いていませんし、お腹も空いてないんです」
そんな事を告げてきて。
それに俺は、やせ我慢でもしているのかと思ったが
「そうか……」と呟き、お茶とおにぎりを後部座席に投げ捨てた。
すると彼女は、悲し気な表情と声音で
「こんな事になって、巻き込んでごめんなさい」と呟いてきた。
そこで、俺は憂いを抱くと共に、優しく言い聞かせる。
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