彼女を攫った日の出来事

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 しばらくすると、体が寒さに堪えだした。それにより、俺は我に返り車へと戻ろうとする。  ただその時、突如としてヘッドライトの照らす先から物音がした。  その音がした場所は雑木林の中。それも、ガサッガサッ! と草木をかき分ける音である。始めは鹿か狸かと思ったが、それは明らかに小動物よりも大きな物音。  さらに、徐々にだがこちらへと近づいてきている。  俺は一瞬、熊か!? と脳裏を過り背筋を凍らせた。  足は竦み、思う様に体を動かせない。俺は呆然と物音がした方へと目を向けたまま離せないでいた。  だが、そこから現れたのは、熊ではなく、人であった。それも、こんな寒空の下、パジャマと薄手のカーディガンを纏っただけの少女。白い肌に、黒く長い髪。恐らく、十代くらいの少女であろう。  そんな少女が、突如としてこんな何もない山道の頂上に現れたのだ。  俺は当然の如くその目を疑った。  ただ次の瞬間、彼女から発っせられた言葉を聞き、さらに困惑させられるのだった。  彼女は雑木林から這い出てすぐに、 「あの、私を攫って下さい」とそんな訳の分からない事を要求してきたのだから。
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