彼女を攫った日の出来事

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 俺はしばらく、唖然としたまま何も出来ずに固まっていた。  一方、頭の中では色々な考えが交錯している。 ――なんで、少女がこんなところに? こんな寒いのになんで、そんな恰好で? そもそも、本当に人なのか? もしかして、幽霊とか?  そんな事を考えていると、不意に彼女は身を縮こませながら、 「あの、聞こえていますか?」と問いかけてきた。  俺はそれにより、我へと返る。ただ、困惑した状態は依然として解けない。 「あ、ああ。聞こえてるよ。聞こえてるけど、なんでこんな所に?」  俺は訳も分からず、そんな当然の質問を投げ返す。  すると、彼女は神妙な面持ちで答えてくる。 「私は……ある人達から狙われています。だから、あそこに身を隠していたんです」  そう言われたものの、俺は理解に苦しんだ。  ただ、ここまではっきりと表情が分かる事。それと、会話も出来ている事から幽霊の線はないだろうと思い、少しホッとする。  勿論、本物の幽霊など見たことはないが。  そんな事を思っていると、彼女は逼迫した様子で頼み込んできた。 「お願いです! 私をどうか、助けてくれませんか?」  依然として状況が呑み込めない。しかし、どうやらただ事ではなさそうだった。それに、彼女をこんな寒空の下に放置するわけにもいかず、俺は提案する。 「待ってくれ。状況がまだ呑み込めない。一先ずは、車内で詳しい話を聞かせてくれないか?」と。  そこで、彼女はハッとした表情を見せつつ、謝罪を述べてくる。 「そうですよね。いきなりこんな事を言われても、困りますよね……。すみません、私も説明不足でした……」  それに俺は、肯定や否定をするでもなく、彼女の身を案じた。 「いや、まぁ。そんな事よりも、早く中へ。このままだと、風邪を引いちゃうかもしれない」
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