彼女を攫った日の出来事

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「私は、その神代村の出身です。そして、その村では毎年年の瀬になると、とある祭事が行われるんです。それは、その年で15になった娘が狭い鉄の箱の中に押し込まれて、一週間を過ごすというものでして。その一週間の間、お風呂やトイレはおろか、飲み食いもできません。人と会話を交わす事も出来ず、狭く暗い鉄の箱の中に一週間もの間隔離される。そんな狂気じみた祭事が毎年行われているのです」  それを聞き、俺は怪訝な表情を浮かべた。  都会で暮らす俺にとっては、あまりにも現実離れしたその話を到底受け入れられる訳がなく。 「それって、監禁ってことじゃ……。一体、何のためにそんな事を?」  俺はそう問いかけたが、彼女からは 「すみません、詳しくは知りません。ただ、その年の死者を弔う為の祭事としか……」と曖昧な答えしか返って来なかった。  ただ、そこまで聞くと俺は察しがいっていた。 「もしかして、今年は君の番なのか?」  すると彼女は俯きがちに頷いて来る。 「はい、その通りです。そして、私はそれが嫌で逃げ出してきたんです。ですけど、ここまで来るまでの道中。村の人間は私を必死に連れ戻そうとしてきました……」  そう漏らしながら。  彼女は困り果てた様子であったが、それを聞かされた俺も困ってしまう。    荒唐無稽な話。いきなり目の前に現れた少女から聞かされた事情はあまりにも重く、すぐさま決断できる問題ではない。  すると、さらに彼女は訴えかけてきた。 「私の足ではここまでが限界でした……。ですから、お願いです! 私をどうか、そんなイカれた村の人間から手の届かぬ地へと連れ出して頂けませんか?」  事情を知った上での何度目かのお願い。ただの家出ではない事は理解できた。  しかし、それでも俺は決断できずにいる。 ――事が事だが……。一歩間違えれば俺が誘拐犯になるのでは? それに、親御さんも心配しているだろうし……。なにより、この話を全て鵜呑みにしていいものなのか……  そんな懸念と疑念を抱き。
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