彼女を攫った日の出来事

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彼女を攫った日の出来事

 俺の趣味はドライブだった。仕事終わり、翌日が休みの日には必ずと言っていい程愛車のミニを走らせる。    これと言って当てもないドライブ。行先も特に決めてはいない。ただ、人里離れた山道を無心で突き進んでいくのが好きだった。  あの日、12月の半ば。年の瀬が近づいた寒空の下、俺はいつもの様に暗い山道を愛車で走らせていた。  車一台分しか走れない狭く細い道は、ただでさえ神経を使う。それに、始めて走る道でもあった。  また、アスファルトには薄っすらと白い雪が積もり、暖房に暖められた車内にまで寒々とした空気が漏れこんでくる様だった。  ここまで、ひたすら3時間も無心で走らせている。  さすがに、俺は疲れを感じてきていた。  すると、ちょうど山頂に差し掛かったその時、程よいスペースを発見した。車三台分が余裕で通れる程のスペース。  そこの端に車を停め、俺は小休止を挟むことにした。ハザードを付け、車外へと降りる。手にはスマホと缶コーヒー。麓のコンビニで買った缶コーヒーはすっかり、ぬるくなっていた。  しかし、外の凍てつく様な空気に比べれば幾分かは暖かい。  それを啜りながら、俺は周囲を見渡す。  周囲は愛車が照らすヘッドライトの先以外は、ほとんど何も見えない。  まぁ、見えたところで、鬱蒼とした木々が永遠と広がっているだけだろうが。  また、ガードレール越しに下を覗き込むと、ここがどれだけ高い場所に位置しているかを分からされた。  真っ暗闇が広がる深い谷底。遥か下の方から、微かに川のせせらぎが聞こえてくるだけの深淵であった。  それを俺は何をするでもなく、ぼおっと眺め見ていた。都会の喧騒とは、かけ離れた非日常感に浸る様に。
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