復活

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復活

「え……?」 「だからぁ、そーゆーイミ」  名前も知らないその子は、私の前の席に陣取ると、ぐっと身を乗り出してきた。 「わたしがあの子のことキライだから、あなたもいっしょにキライになってよ」  上目遣いと目が合う。私の机の半分は、その子が埋め尽くしたような形だ。化粧の濃い、脱色した髪を腰の辺りまで伸ばした、気の強そうな少女だった。私はなんと返事して良いか分からず、言葉に詰まったままだった。 「だってホラ転校生、まだ何も知らないじゃない? だから私が教えてあげようってわけ。この学校のこととか、クラスのこととかさ。誰と仲良くすれば良いか、早く知りたいでしょ? それにあの子は……」  ニヤニヤと、嘲るような視線が交錯する。それから私は出会ったばかりのクラスメイトに、まだ顔も知らない『あの子』について色々レクチャーしてもらった。家庭の事情がどうだとか、性格がどうだとか。過去にこういうことがあって、だから今こうなってて……。 「……どうしたの?」 「……ううん」  私は目眩がして、思わず視線を逸らした。 「じゃ、ま、そーゆーことだから」  茶髪の彼女はそういうと、さっさと席を立ち、入り口でこちらを覗いていた友達の輪の中に戻って行った。……そういえば、彼女の名前すら私は覚えていない。先月この街にやってきて、確かに私はまだ何も知らないことばかりだった。  それから私は、ポツンと一人席に座ったまま、例の『あの子』の席を探した。斜め前の窓際の席は、昼休みになっても空席のままだった。このところ休みがちになっているらしい。それはさっきの彼女に言わせれば、『当然の報い』らしい。本当かどうかも分からない。何が本当で、何が嘘なのかも。全部そーゆーことなのだ。噂話に表現の自由はあれど、表現の責任はないのだった。  この話はこのまま有耶無耶になって終わると思っていた。ところが、だ。  一月も経つと、今度は最初に私に忠告してきた方、茶髪の彼女が学校に来なくなってしまった。それとほぼ同時に、『当然の報い』を受けていた『あの子』が登校してきた。 無責任な噂話の断片を統括すると、こうだ。 茶髪の彼女、彼女の父親は有名な代議士だった。ところが今回の選挙で惜しくも落選してしまったらしい。代わりに復活するような形で当選したのが、『あの子』の父親だった。なんてことはない、ただ親の権力争い派閥争いに、子供が感化されてしまっただけの話だ。   クラスの華、女子からも男子からも慕われていた『茶髪の彼女』は、まるで最初からいなかったみたいに教室から姿を消した。代わりにみんな、久しぶりに登校してきた『あの子』の周りに群がり、まるで最初から何もなかったみたいに歓迎した。 「おめでとう!」 「おめでとう!」  そしてある日、化粧をバッチリと決め、ご自慢の金髪を腰まで伸ばした『あの子』が私の元にやってきて、こう言ったのだ。 「ねえ、わたしがあの子のことキライだから、あなたもいっしょにキライになってよ」  私は返事ができなかった。それからしばらくして、親の仕事の都合で、私は又しても転校する羽目になってしまった。それから数年後、再び選挙が行われて、どうやら今度は『茶髪の彼女』の方が当選したらしい、と風の噂で耳にした。その後彼女たちがどうなったのか、私は知らない。
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