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「茉奈はクリスマスプレゼントに何が欲しいって言った?」
まるでクイズのヒントを与えるみたいに、純也が茉奈ちゃんに問いかける。
「えっと、指輪。これが緩くなっちゃったから」
茉奈ちゃんは右手の薬指に嵌めた指輪を、親指で動かして見せた。
ピンクダイヤのついた細いゴールドの指輪は、去年付き合い始めた直後に純也がクリスマスプレゼントとして贈ったものだ。
「だろ? だから、どんな指輪がいいか、聖花さんに相談に乗ってもらったんだ」
「え……」
茉奈ちゃんが微妙な顔をした。
それはそうだ。いくら茉奈ちゃんの親友だからと言って、他の女が選んだ指輪をもらっても嬉しくも何ともないだろう。
どうして純也はこんな初歩的なこともわからないのか。
「それで聖花の店に行って、聖花が選んだ指輪を買ってきたの? 『茉奈にはこれが似合うよ』とか『こっちの方が茉奈の好みだね』とか言い合って? そうやって聖花と純也が仲良く相談して決めた指輪をもらって、私が喜ぶと思う? どうして私と一緒にお店に行って買おうと思わなかったの?」
「いや、だって……それじゃ、サプライズにならないから」
ようやく純也も自分がしたことの愚かさに気づいたようだ。
しどろもどろに答えた純也は、真冬なのに額に汗を滲ませている。
「サプライズも何もないでしょ。『クリスマスプレゼントは指輪がいいな』ってリクエストしたのは私なんだから」
「そうだけど……」
俯いた純也は何とも情けない顔をしていた。
どうして茉奈ちゃんはこんな気が弱くて何一つビシッと決められない男がいいんだろう。
取り柄と言えば優しいところしかないような奴だ。
「純也が私を好きになったきっかけって、雪道で転んだ私がかわいそうでほっとけなかったからだって言ってたよね?」
大きく息を吐き出した茉奈ちゃんがそんなことを言い出すから、俺はビックリして2人の顔を交互に見た。
え? もしかしておととし茉奈ちゃんが転んで捻挫したときに助けてくれた通行人が、この純也だったってことか⁉
あのとき、あの通行人は茉奈ちゃんをおぶって病院まで連れて行ってくれたから、ずいぶん親切な男だと感心したものだが、あれが純也だとなると様相は一変する。
あれがきっかけで茉奈ちゃんに惚れた純也は、茉奈ちゃんが誰でどこに住んでいるかを突き止めて、このシェアハウス【フルハウス】に移り住んできたということだ。
それって立派なストーカーじゃないか!
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