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「優しい純也は困ってる女の子を見ると手を差し伸べたくなるんだよね。聖花のことも好きになった? 今月のノルマが達成できないかもって愚痴ってたから、聖花の売り上げに貢献したくて指輪を買った?」
また茉奈ちゃんが涙声になる。
ストーカーみたいなことをされても、茉奈ちゃんは純也が好きなんだな。
何だか俺まで泣きそうな気持ちになってきた。
「そうじゃないって。どんな指輪がいいかわからなくて聖花さんにちょっと質問したら色々教えてくれて、『入荷したばかりの新商品でいいのがある』って言われたから見に行っただけだよ。実際、その中の1つが茉奈にピッタリだと思ったから買ったんだ。聖花さんにあれこれ相談しながら決めたわけじゃないし、もちろん彼女が選んだわけでもないよ。聖花さんがどんなに困ってたとしても、好きになったりしない。俺には茉奈がいるんだから」
切々と訴える純也の言葉に茉奈ちゃんは心を動かされたみたいだが、俺の中にはまだ純也への不信感が残っている。
それは茉奈ちゃんも同じだったようで、涙を拭った彼女は「本当に? 本当は先輩を紹介するためじゃなくて、純也が聖花と一緒に飲みに行きたかったんじゃないの? 夕べ聖花と親しくなれたから、朝から鼻歌が出るぐらい機嫌が良かったんでしょ?」と口を尖らせた。
「朝からご機嫌だったのは、俺のサプライズに茉奈が喜んでくれると思ったからだよ。でも、ごめん。指輪のことで茉奈を驚かせたくて、聖花さんに呼び出されたことや一緒に飲んでたことを隠したのは悪かった。彼女の香水の匂いが付いた服を洗ったのも、疚しいことがあったからじゃなくてサプライズを成功させたかったからなんだ。聖花さんと一緒にいたいなんて思ったこともないよ。俺は早く茉奈の元に帰りたかったのに、先輩に引き留められて仕方なく飲んでたんだ。聖花さんとの仲を茉奈に疑われるなんて思わなかったから、咄嗟に誤魔化そうとして本当にごめんな」
純也が深々と頭を下げると、茉奈ちゃんが眉根を開いた気がした。
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