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すぐに自分の部屋に戻るかと思った茉奈ちゃんが、リビングのソファーにストンと腰を下ろした。
「小太郎、聞いて。純也は『会社の先輩に呼ばれたから飲みに行ってくる』って言って出ていったんだけど、私、その前に純也のスマホのプッシュ通知見ちゃったんだ。メッセージで純也を呼び出したのは会社の先輩なんかじゃなくて聖花だった。『今から出てこられる?』って」
突然の不穏な発言に、俺は言葉も出ない。
純也が茉奈ちゃんと交際していることは、聖花も知っていることだ。
「ねえ、小太郎、どう思う? 同じシェアハウスに住んでるのに、2人が外で会う必要なんてないよね? 先輩と飲みに行くなんて嘘ついて、純也は聖花と浮気してるのかな? 私、彼氏と親友に裏切られてるんだと思う?」
まあ、そうだろうなと思ったけれど、茉奈ちゃんの頬を伝った一筋の涙を見たら、俺は肯定も否定もできなかった。
一年半前にここに入居してきた純也は、最初から胡散臭かった。
ペット可のシェアハウスなのに、ペットを飼っていない男がわざわざ住むなんて怪しいと思っていたんだ。
でも、純粋な茉奈ちゃんはすぐに純也と仲良くなり、知り合って半年で2人は付き合うようになった。
意外にも告白したのは茉奈ちゃんの方からで、クリスマスイブが2人の交際記念日になったのだが……。
「明日はクリスマスイブだよ? 純也と私が交際を始めてまだ1年しか経ってないのに、もう破局だなんて悲しすぎるよ。今夜、彼が聖花の香水の匂いを纏って帰ってきても、気づかないフリをしてればいいのかな?」
そんなのは間違っている。
俺が静かに首を横に振ると、茉奈ちゃんも「そうだよね。それじゃあダメだよね」と呟いた。
「でも今日はショックが大きすぎて、純也を問い詰める気力ないや。もう寝るね」
「おやすみ」と俺に挨拶した茉奈ちゃんだが、たぶん一晩中泣き明かすことになるのだろう。
俺から純也に一言文句を言ってやろうと思ったが、あいつが帰る前に俺は眠ってしまった。
というか……あいつは朝帰りだったんじゃないかな。
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