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一夜明け。シェアハウスのキッチンには、鼻歌交じりで朝食を作る純也の姿があった。
日曜日の早朝だというのに、純也にしてはやけに早起きだ。
「おはよう、小太郎。そろそろ茉奈が起きてくる頃だからオムライス作ったんだ。おまえの分もあるぞ」
冗談じゃない。浮気者の作ったメシなんか、頼まれたって食ってやらねえぞ。
俺が文句を言おうと口を開きかけた時、茉奈ちゃんの部屋のドアが開いて、綺麗にメイクした彼女が出てきた。
休日の朝からどこかへ行くつもりだろうか。毎朝の日課として散歩を欠かさない茉奈ちゃんだが、いつもはスッピンにジャージ姿だ。
不思議に思ったのは一瞬で、彼女の目を見て俺はすぐに理解した。茉奈ちゃんはこれから純也を問い詰めて、別れるつもりなんだと。
「おはよう。純也、今朝はずいぶんご機嫌なのね。夕べは遅く帰ってきたみたいなのに、私より早起きして朝ごはんまで作ってくれて。雪でも降るんじゃないかって、ちょっと心配になるぐらいよ」
茉奈ちゃんは何度も練習したセリフを読み上げるみたいに、抑揚のない声で一息に言い切った。
その目は真っ赤に充血していて、瞼が腫れている。メイクで誤魔化そうとしたようだけれど、全然誤魔化し切れていない。
きっとあれから一晩中泣いていたのだろう。かわいそうに。
それなのに、純也の奴は恋人の顏をチラッと見て小首を傾げた。
「おはよう。茉奈、その目、どうした? ものもらい?」
は⁉ おまえが浮気したせいだろうが!
怒りに任せて純也に嚙みつこうとした俺の前に、ポンと皿が置かれた。
茉奈ちゃんの前に置かれたオムライスには、ケチャップでハートが書かれている。
茉奈ちゃんは「ありがとう」と唇を震わせながら言うと、ワッと泣き崩れた。
「え? 何? どうかした?」
オロオロと慌てる純也は本当に鈍感だ。それとも、浮気がバレていないと高を括っているのかな。
『夫婦喧嘩は犬も食わない』というけれど、本当に茉奈ちゃんと純也の小さな言い争いなんてイチャイチャの内みたいなものなんで、こいつらの揉め事には首を突っ込まないようにしていたが、さすがに今回のことは見過ごせない。
純也が白を切るようなら茉奈ちゃんに加勢しようと考えた俺は、ダイニングに残って話の成り行きを見守るために食いたくもないオムライスを口に入れた。
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