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純也の作ったメシを食ったのは初めてだが、見た目の割に旨いじゃないかというのが正直な感想だ。
俺は生の卵が食べられないのだが、しっかり火を通してくれてある。
一方、茉奈ちゃん用のは彼女好みの半熟トロトロ。
純也のこういう細やかな心遣いが茉奈ちゃんのハートを掴んだのだろうけれど、今の茉奈ちゃんはそれどころじゃないみたいだ。
やっと泣き止んだ茉奈ちゃんはティッシュで目元を押さえると、純也を見上げた。
「夕べはずいぶんいいことあったみたいね」
「え? 夕べ?」
純也がすっ呆けたら、茉奈ちゃんは呆れた顔でサラダにドレッシングをかけた。サラダと言っても、レタスを大きくちぎっただけの代物だ。
「そうやって顔色窺うような視線はやめて。私に何か言いたいことがあるんでしょ?」
「え……何のこと?」
焦ったような顔をした純也が聖花の部屋のドアをチラッと見た。聖花が茉奈ちゃんに浮気をバラしたと思ったのだろう。
反省する様子も悪びれる様子もない純也に腹が立つ。
「せっかくオムライス作ってくれたから、温かい内にいただくけど、食べ終わったらちゃんと話そう?」
「うん」
決然とした茉奈ちゃんの言い方に純也は戸惑ったように頷いた。
茉奈ちゃんにバレなければ、このままズルズルと浮気を続けるつもりだったんだろうか。
茉奈ちゃんとも聖花とも同じ屋根の下で暮らしていながら、2人と同時進行で関係を持つなんて、俺には純也の気が知れない。
早く別れればいいのにと思いながら茉奈ちゃんの様子を窺うと、「いただきます」と手を合わせた彼女は悲しみのあまり喉を通らないのかオムライスを少しずつ少しずつ食べている。
ああ、そうか。食べ終わったら破局が待っているとわかっているから、茉奈ちゃんは純也との関係を引き延ばしたくてわざとゆっくり食べているんだ。
そんな切ない女心も知らずに、純也は「茉奈、どこか具合悪い?」なんて心配しているフリをしながらオムライスをバクバク食っている。
とっとと食い終わってしまった俺は手持ち無沙汰で立ち上がったが、聖花が部屋から出てきたので、ますます成り行きを見届けなければと座り直した。
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