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「おはよう! 良い匂いがすると思ったらオムライス! 美味しそうね」
聖花はそう言いながらも、まっすぐコーヒーメーカーの方へと歩いていった。
聖花は朝食を食べない。彼女は今日も仕事だが、午前中はコーヒー1杯で乗り切れるらしい。
聖花がコーヒーの粉や水をセットする後ろ姿を、茉奈ちゃんはぼんやりと見ている。
いつもと変わらない様子の親友が、実は陰で自分の彼氏と浮気していたなんて信じられないのだろう。
聖花がマグカップを手に自分の席に座ると、茉奈ちゃんはスプーンを食べかけのオムライスの皿に静かに置いた。
「ねえ、いつから? いつから2人は私の目を盗んで会うようになったの?」
茉奈ちゃんの口調は恋人と親友を責めるものではなく、諦めのような気怠さがあった。
「はあ? 何言ってんの? 茉奈」
すぐに聖花は呆れた口振りで返したけれど、一瞬彼女と純也が視線を交わしたのを俺は見逃さなかったし、茉奈ちゃんもそうだろう。
「夕べ、純也をメッセージで呼び出したでしょ? 『今から出てこられる?』って。純也は『先輩に呼び出されたから飲みに行ってくる』って嘘ついていそいそと出掛けたけど、2人で一緒に帰ってきたよね?」
「しまった」と言わんばかりに、今度は明らかに聖花と純也は顔を見合わせた。
俺はぐっすり眠っていて2人が帰宅したのも知らなかったが、茉奈ちゃんは一睡もせずに足音に耳をそばだてていたのだろう。
「たまたま駅からの帰り道で一緒になっただけよ。私がそんなメッセージを純也に送るわけないじゃない。茉奈の見間違いだよ」
「本当に会社の先輩と飲んできたんだ。嘘じゃないよ」
2人が茉奈ちゃんを宥めるように言い募ったけれど、茉奈ちゃんはやれやれと呆れた顔で首を横に振った。
「あくまでも白を切るつもりなんだ? 純也、夕べ着てた服、洗濯機に入れて予約タイマーセットしてたでしょ。明け方トイレに起きたときに、私、臭いを嗅いでみたの。純也のトレーナーから聖花の香水の匂いがした。2人が一緒にいたんじゃなかったら、誰の香水?」
あーあ。純也の奴、やっちまったな。浮気しているくせに詰めが甘すぎるんだよ。
共用の洗濯機を我が物顔でタイマー予約するなんて、やり慣れないことをするからバレるんだ。
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