浮気の言い訳

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 純也は観念したように片手で顔を覆ったが、聖花は「並んで歩いて帰ってきたから匂いが移っただけでしょ? 茉奈は親友の私のことが信じられないの?」と憤慨したように言い放った。 「信じたいよ! 親友と彼氏に裏切られてたなんて、信じたくないに決まってるじゃん! 裏切ってないって言うなら、ちゃんと納得できるような話をしてよ、純也!」  悲痛な叫びを上げながら茉奈ちゃんが立ち上がると、ポタリとテーブルの上に雫が落ちた。 「ごめん。まさか茉奈を悲しませることになるなんて思いもしなかったんだ」  純也が立ち上がって頭を下げた。  こいつ、バカじゃないのか? 浮気されたら誰だって悲しいし、恋人と親友が陰で自分を嘲笑っていたと思ったら悔しいし虚しくもなる。  そんなこと俺だって想像できるのに、純也には想像力の欠片もないみたいだ。 「じゃあ、浮気を認めるんだね? と言うか、浮気じゃなくて心変わり? だとしても、きちんと私と別れてから次に進むべきだったよね?」  茉奈ちゃんがストンと椅子に座り直して、諭すように純也の目を見た。 「え? いや、違うよ! 浮気なんかしてないし、心変わりでもない」 「そうよ。ただ3人で一緒に飲みに行っただけ。純也は先輩を私に紹介してくれたの。凄くシャイな人で、『初対面の女性と2人きりで会うのはハードルが高すぎる』って言うから、純也にも最後までいてもらっただけだよ」 「それならどうしてそう言わなかったの? メッセージなんか送ってない、たまたま帰り道で一緒になっただけだなんて、嘘ばっかりじゃん。嘘ついておきながら、『親友の私のことが信じられないの?』なんて私を責めるみたいなこと、よく言えたよね?」  「それは……ごめん」と聖花の蚊の鳴くような微かな声が聞こえてきたが、茉奈ちゃんの追及は止まらなかった。 「それにその話が本当だとして、どうして私も一緒に誘ってくれなかったのかが不思議。ダブルデートみたいにした方が話が弾むでしょ?」 「それは、純也が余計な心配をしたから。先輩が茉奈の方を気に入ったら困るって」 「心配じゃないよ。茉奈は可愛いから、絶対先輩も好きになると思ったんだ。『譲ってくれ』って言われても、こればかりは譲れないし」 「はいはい。私よりも茉奈の方が断然可愛いからね」 「え、あ、いや、そうは言ってないよ」  聖花のツッコミに純也がおどおどと返した。
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