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2人は以前は挨拶ぐらいしか言葉を交わしていなかったのに、親し気なやり取りに驚いた。
ほんの数時間一緒に飲んだだけで、こんなに距離が縮まるものだろうか。
茉奈ちゃんも疑問を持ったようで、眉間に皺を寄せた。
「聖花と純也、いつの間にそんなに仲良くなったの? っていうか、先輩を紹介するとか、一緒に飲みに行くとかいう話は急に決まったわけじゃなくて前から話してたんだよね? どうして私に内緒にしてたの? 疚しいことがなければ私に言うよね?」
「それは……」と純也が口籠る。
「あー! 私、もう行かないと遅刻しちゃう。じゃあ、純也、後は頑張ってね」
聖花は早口で言い残すと、さっさと出ていってしまった。
飲みかけのコーヒーが残るマグカップはテーブルに置いたまま。
茉奈ちゃんはため息を吐いて、それを見つめた。
「純也、何を“頑張る”の? 浮気の言い訳? それとも私と後腐れなく別れること? ごめん、オムライスもう食べられないや」
茉奈ちゃんは純也に謝ると、自分の食器と一緒に聖花のマグカップをシンクに運んで行った。
俺はやっと純也が今日に限って朝食を作っていた理由に思い当たった。
聖花の香水の匂いが付いた服をタイマー予約で洗濯した純也は、茉奈ちゃんが起きる前に洗濯機から出して自分の部屋に干さないといけなかった。茉奈ちゃんに見咎められる前に。
だから珍しく早起きをしたし、茉奈ちゃんに後ろめたい気持ちがあったから好物のオムライスを作ったのだろう。俺の分はついでってことか。
茉奈ちゃんが食器を洗い始めると、慌てて純也も自分の食器を持って茉奈ちゃんに近づいていった。
「茉奈、ごめん。ちゃんと説明するから」
「今夜はクリスマスイブだよ? 交際一周年記念日なのに、なんで朝から浮気を問い詰めなきゃならないのよ。もう最悪! どうせ純也は今日で交際丸一年だって憶えてなかったんでしょ」
涙声の茉奈ちゃんが鼻を啜り上げる。
俺には茉奈ちゃんの背中しか見えないが、彼女は食器を洗いながらきっとまたポロポロ涙を零しているんだろう。
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