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「――それで」
老婦が口をひらいたと同時に、膝くらいの高さのテーブルに、バラ柄のしろいティーポットがことりと置かれた。
「お待たせいたしました。アールグレイティーでございます」
その言葉に首をまげるようにしてちいさくお辞儀をし、前にいる老夫にふたたび顔を向けたとき、今度はアップルパイひときれが乗せられた皿が置かれる。パイの網目から覗くつやつやとしたキャラメル色の果肉を見つめていると、老夫の前にも皿が静かに並べられていった。湯気の出ているコーヒー、角砂糖の乗った小さな皿、二枚のちいさなホットケーキ、それから、ナイフとフォークがそれぞれ二本ずつ入ったカトラリーケース。
艶のある黒髪をひとつに縛った若い女性店員が、かるいお辞儀をする。それを見た老婦が今度こそと喉に力を入れるのを見計らったように、「こちら伝票です」と二つ折りにされた茶色の紙がテーブルの隅にそっと添えられた。
「――ごゆっくりどうぞ」
「また僕アップルパイ頼んじゃったの?」
老夫が困ったように言う。「そうよ」と言いながら、老婦はカトラリーケースからナイフとフォークを取り出し、向かいの老夫に手渡した。
「わたしチーズケーキって言ったのに」
「ごめんね」
謝りながら、老夫がナイフをホットケーキに入れる。しかし生地のかたさからか厚みからか、あるいは歳からか、ホットケーキは上手く切れず、結局ほとんど裂くようにして、ようやくひとくち大にする。そしてそれにフォークを突き刺すと、手を伸ばしてアップルパイの横に添えた。
「あらありがとう」
「それで?」
老夫がまたホットケーキを裂きながら言う。「何を言おうとしたの?」
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